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石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャー。

『オーファン・ブラック 暴走遺伝子』シーズン3感想

ドラマ 百合/レズビアン

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プロットますます迷走中、タチアナは相変わらず最高

アイデアの枯渇を感じるシーズンでした。1、2シーズンと違って魅力的な悪役がいないし、プロットはもたついていて、オリジナリティーも希薄です。レズビアン・ロマンスもただのメロドラマで退屈。タチアナ・マズラニーの好演だけが燦然と輝いています。

タチアナはいいのよタチアナは

『オーファン・ブラック』は、ある目的のもとクローンとして生み出された女性たち(通称『クローン・クラブ』)が連帯し、迫りくる悪の組織と戦うという内容のSFドラマ。主役のタチアナ・マズラニーは性格も第一言語も違う複数のクローンをひとりで演じ分け、その卓越した演技力で数々の賞に輝いてきました。シーズン3でも、彼女の実力はまったく陰りを見せていません。

今シーズンのタチアナの役でとりわけよかったのは、郊外主婦のアリソン。シーズン3でもっともオリジナリティーがあるのは、アリソン(と夫ドニー)の起伏多めの日常生活の部分だと思います。他にはヘレナもよかったです。#9に代表されるような、コメディリリーフから凶暴な暗殺者まで苦もなく豹変する幅広さが特に。

メインプロットは足踏み中

第2シーズンでもすでに見られた、「メインプロットを足踏みさせて次から次へと壮大な陰謀をほのめかしたあげく、駆け足の説明台詞で辻褄を合わせるしかなくなった」というやぶれかぶれ感が、本シーズンではついに最高潮に達しています。特にシーズン最後の2話(#9、#10)の説明台詞の多さときたら、すさまじいのひとこと。主人公たちが海外まで飛んでオリジナルの細胞の出どころを突き止めるくだりなど、やろうと思えばもっといくらでも盛り上げられそうだったのに、新参キャラに長台詞でペラペラペラペラしゃべらせるだけで終わりってどういうことよ。さらにその後、一行が瞬時に米国に戻ってきたいきさつも台詞でペラペラ、あっちの組織やこっちの組織の企みについても台詞でペラペラといった塩梅で、もはやドラマというより壮大な「設定資料朗読大会」を見ているかのような趣でした。

シーズン終盤で脚本家が力尽きたのか、それとも予算が尽きたのかはわかりませんが、このあたりを見ている間じゅう頭の中で叫んでいたことはひとつ:「シーズン1第1話のあの緊迫感を返してよ!!」。地下鉄ホームでのサラの行動だけであれだけ視聴者をドキドキさせてくれた『オーファン・ブラック』を返してよ、本当に。

思うんだけど、シーズン2でカストールのクローン(アリ・ミレン)を出して変に話を膨らませようとしたのがそもそもの間違いだったんじゃないでしょうかね。カストールの男性クローンたちは魅力も個性も薄く、無駄に後付け設定を積み重ねてメインプロットの力を削ぐ役にしか立っていないようにようにあたしには見えました。そうそう、話のもたつきを目先の過激さでごまかす作戦なのか、必要以上に多めのエログロバイオレンス描写(それも、カストールのクローンによるレイプシーンとかね……)が散りばめられているところもどうかと思いました。何度でも言うわ、シーズン1第1話のあの極上の緊迫感を返してよ、本当に。

ヴィランに魅力なし

今シーズンではフェルディナンド(ジェイムズ・フレイン)やバージニア(カイラ・ハーパー)、ニーロン(トム・マッカムス)など小粒のヴィランが思わせぶりにうろちょろするばかりで、第1~2シーズンのリーキー(マット・フリューワー)やレイチェル(タチアナ・マズラニー)匹敵するような存在感のある悪役は見当たりません。まるでクルエラ・デ・ビルのいない101匹わんちゃんやT-3000のいないT2みたいなもので、どこに力を置いて見たらいいのかわかりづらかったです。

オリジナリティも減少

遺伝子操作やクローン人間を扱ったオリジナル作品だったはずのドラマが、途中からところどころで『ブレードランナー』や『ヒドゥン』の安易な焼き直しと化しつつあることにがっかりさせられました。視聴者をなめんじゃないわよ、『ブレードランナー』が見たければ『ブレードランナー』を、『ヒドゥン』が見たければ『ヒドゥン』を最初から見るわよっ!

レズビアン・ロマンスも空回り

本シリーズのレズビアン要素を一手に引き受けているのは、女性クローンのひとりのコシマというキャラ。シーズン2にこんな名台詞があることで有名です。

わたしのセクシュアリティが、わたしに関してもっとも面白い部分だというわけじゃないの。*1

My sexuality's not the most interesting thing about me.

この台詞の通り、『オーファン・ブラック』ではこれまでコシマの同性愛をむやみに特別扱いしたりせず、その上できちんとケミストリーが感じられるロマンスを描いていて、そこがとてもよかったんですが――シーズン3はどうもダメだわ。コシマのセクシュアリティの部分も、そしてそれ以外の部分も、両方面白くなかったわ。

何がダメって、コシマの(元)恋人・デルフィーヌ(エブリンヌ・ブロシュ)の言動の整合性のなさと、新恋人・シェイ(クセニア・ソロ)の存在感の薄さです。今シーズンでこの3人は一種の三角関係を形成するのですが、彼女らの会話やいちゃいちゃ(という設定であるらしき肌色多めのサービスカット)はどれもとってつけたようなメロドラマにしか見えず、少なくとも自分のゲイダーは何ひとつ反応せずじまいでした。こないだ新『ゴーストバスターズ』を見たときには、ホルツマンの第一声だけでメーターが振り切れて針が吹っ飛ぶぐらいだったので、ゲイダー自体は壊れていないはずなんですが。たぶん、シーズン3でのコシマ周りのレッドヘリングの仕込み方がわざとらしすぎるため、何を見てもうさんくさく思えてしまったというのが原因なんじゃないかと思います。そんなわけで、レズビアンドラマとしてもあたしにはいまいちでした。

なお、賛否両論だったシーズン最終話での衝撃的展開は、あたしには「よくあるクリフハンガー」の範疇に見えました。このシリーズであの描写なら、どう見てもあのキャラは○○○○○でしょうから、あれはいわゆる「ゲイを葬れ("Bury Your Gays")」(視聴者を驚かせるため安易に同性愛者や両性愛者のキャラを殺すという陳腐な手法のこと)や、クィアベイティング(この先描く気もないクィアなストーリーラインをほのめかして視聴者を釣ること)にはあたらないような気がします。とりあえず、最終的な判断はシーズン4を見てからになりますけど。

まとめ

SFドラマとしても、レズビアン要素のあるドラマとしても、シーズンごとの出来は1>2>3だと思います。それでもまだシーズン・フィナーレまで観客を引っ張っていく力はありますし、タチアナ・マズラニーの演技はいつも通り圧倒的なのですが、なんせシーズン1が面白すぎましたからね、このシリーズ。比べればどうしても粗が目立つのは仕方ないかと。とりあえず、本国ではもう放送が終わっているシーズン4で、今シーズンの「話の散漫さをエログロバイオレンス&説明台詞でごまかす」というパターンが少しは是正されているといいな。あと、コシマがもう少し地に足がついた恋愛をさせてもらえているといいな。彼女がシナリオ上の都合だけで誰かと別れさせられたリくっつけられたりしているところを見るのは正直楽しくなかったです、いちレズビアンとして。

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*1:日本語字幕では「性的趣向で私を決めないで」という訳になっています。