石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

サッカーW杯初日の試合でレインボーフラッグが翻る

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以前から宗教保守が「W杯開催都市でゲイがキスしたら警察に通報する」と脅してさえいるロシアで、プーチンが演説をした第一試合でレインボーフラッグを振った男がいます。同国のLGBT団体の代表、Alexander Agapovさんです。

詳細は以下。

Rainbow Flag on Display During Putin's World Cup Speech - The New York Times

まず写真をどうぞ。

これは6月14日にモスクワで開催された、ロシア対サウジアラビア戦での一コマだとのこと。AgapovさんはロシアLGBTスポーツ連盟のプレジデントで、プーチンの演説中にこの旗を広げ、さらにロシアが点を入れるたびに振っていたのだそうです。この試合はロシアが5対0で勝ったので、少なくとも5回、観客席で虹色の旗がはためいたことになります。以下、Agapovさんのことば。

「人は言動一致であるべきだと思っています。それで、わたしはLGBTのサッカーファンに隠れるのはやめようと言っているのですから、まず自分がそうしなければならないと思いました」

"I believe you should practice what you preach and, if I'm telling LGBT football fans to be visible, then I should do it myself,"

ロシアには同性愛プロパガンダ禁止法がありますが、W杯会場でレインボーフラッグを振ること自体は禁止されてはいません。ロシアフットボール連盟役員でW杯アンバサダーのアレクセイ・スメルティン(Alexei Smertin)氏は、「絶対に禁止はされない」と発言しています。ただし、これはあくまで未成年への「プロパガンダ」は許されないと念押しした上のことでしたし、この国では先日、W杯を見にやってきたゲイカップルが暴漢に襲われて脳挫傷などの大けがをしたばかり。この環境でプライド・フラッグを振るのは、やはり勇気のいることだったことでしょう。実際、Agapovさんのひとつ前のツイートはこんなですし。

訳:

チェックポイント通過。スタッフは旗を見せてほしいと言った。旗に文字が書かれているかと。それから彼は「よろしい」と言った。だが、他のロシア人の観客が、「ロシアにはそんな世界は要らない」とホモフォビックな意見を披露した。

I passed the check point. The staff asked to show flag of it contains words. Then he said GOOD. However another Russian visitor expressed his homophobic opinion by saying "We don't need such world"

「そんな世界」も何も、世界はシスヘテロだけのものじゃないんですけどね。LGBTピープルが黙って隠れていたら、マジョリティーがますますいい気になってスポーツ会場でホモフォビックな(あるいはトランスフォビックな)チャントや「ジョーク」を叫び散らし続けるだけでしょ。ほら、今回のW杯のメキシコ戦でもメキシコのファンたちがやっていたようにね。動画もあるよ、まったく楽しそうだよねこいつら。

LGBTのファンたちがスタジアムでレインボーフラッグを振らなくて済むようになるのは、こういう蔑視や差別的言動がサッカー界から完全に消えたときでしょう。それまでは抵抗するに決まってんじゃん、たとえこれがロシアじゃなくてもさ。

仏でゲイへのテロ計画か 容疑者2人逮捕

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仏警察当局が2018年6月9日、ゲイを標的にしたテロ攻撃を企てていたとして21歳と22歳の男を逮捕したそうです。

詳細は以下。

French police arrest two men over 'terror plot to attack gay people' - The Local

捜査に近い筋によれば、容疑者らはセーヌ=エ=マルヌ県で逮捕され、国内治安総局の強制捜査により刃物や発火装置、ISISのプロパガンダなどが発見されているとのこと。計画の詳細は不明なものの、同性愛者を襲撃のターゲットとしていた証拠があり、ふたりは現在公判前拘留されているそうです。

単にW杯のパブリックビューイングに集まっているだけでテロの標的になりうる昨今、「ゲイだから」という理由で特別に他のグループより危険にさらされているというわけではないのかもしれません。でもやっぱりこういうニュースには心が沈むわ。いつまでこんなことが続くんだろう。

今週の未紹介LGBTニュース(2018年6月17日)

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映画『君の名前で僕を呼んで』、桃の香り付きサントラレコードを発売

Call Me By Your Name Soundtrack Vinyl Will Smell Like Peaches | Pitchfork

2018年8月3日発売予定の映画『君の名前で僕を呼んで』のLPレコード盤のサントラが、円盤が桃色で、しかも桃の香りがつけてあるというニュース。レコードとパッケージの外観については、以下の写真をどうぞ。

このレコードは2枚組でポスターなどが付属し、限定7777組が発売される予定だとのこと。なお、なぜ桃なのかと疑問にお思いの方は、YouTubeで"call me by your name peach"で検索してみられるとよろしいかと思います。映画のネタバレにはなっちゃいますけど。

ドラァグクイーンの読み聞かせを妨害しようとした牧師、ブーイングで追い出される 米アラスカ州

Pastor Crashes Drag Queen Story Time, Gets Booed Out | NewNowNext

アラスカの公立図書館が、プライド週間のイベントとして、ドラァグクィーンとドラァグキングによる絵本の読み聞かせを開催。これを妨害しようとした自称福音派牧師デイヴィッド・グリシャム(David Grisham)氏が、大いにブーイングを浴びたんだそうです。映像は以下。

上記動画を見ればわかる通り、グリシャム氏はチケットもなしでこのイベントに乱入して「トランスジェンダーなどというものは存在しない」と連呼したあげく、追い出されたようです。ドラァグとトランスの違いもわからないのに、何をどう説教するつもりだったんでしょうか。

なお、どうも名前に見覚えがあると思ったらこの牧師さん、以前クリスマスショップで子供たちに「サンタなどいない」と叫んでいた以下の動画の人と同一人物ですね。懲りてないなあ。


生徒と元生徒がレズビアン教師のため学校区に働きかけ 米カリフォルニア

California LGBTQ Students Rally Behind Bullied Lesbian Teacher | NewNowNext

米国カリフォルニア州ロックリンにあるスプリング・ヴュー・ミドル・スクール(Spring View Middle School)の教員、エイミー・エステス(Amy Estes)さんが、同性愛者であることが理由で生徒たちからネットいじめを受けたとして休職。これを受け、ロックリン学区のLGBTQの生徒や元生徒たちが同学校区の会議に出席し、学校区をよりインクルーシヴなものにするよう要求したのだそうです。

会議で発言した元生徒のひとり、コナー・クック(Connor Cook)さんは、ゲイであるために同学校区の高校でいじめられ続けた経験があり、エステスさんへの支持を示さねばと思ってやってきたとのこと。彼の発言後、会場では拍手が巻き起こったそうです。


英王族で初めてカミングアウトした男性が同性との婚約発表

First member of the royal family to come out announces engagement

エリザベス2世のいとこで、2016年にバイセクシュアルであることを公表したアイヴァー・マウントバッテン卿(Lord Ivar Mountbatten)が、同性パートナーのジェイムズ・コイル(James Coyle)氏との婚約を発表したそうです。ふたりはイングランド南西部のデヴォン州にあるプライベートなチャペルで結婚する予定だとのこと。

その昔エドワード8世とシンプソン夫人の交際が、夫人に2度の離婚歴があるからという理由で大反対された国で、ついに王族の同性ウエディングとはねえ。英王室にはまったく興味ないけど、この変化は興味深いわ。

LGBTQ米国人の約半数がバイセクシュアル(米調査)

Who Are LGBTQ Americans? Here’s A Major Poll On Life, Sex, and Politics.

世論調査会社Whitman Insight StrategiesとBuzzFeed Newsによる調査で、米国のLGBTQの成人の46%がバイセクシュアルのアイデンティティーを持つという結果が得られたとのこと。この調査は同国のLGBTQの成人880人を対象に実施され、32%がゲイ、16%がレズビアン、5%がクィアなど、1%がAセクシュアル、1%がストレートの自認を持っていると答えたそうです。

この調査結果が正しいとすればバイセクシュアルは米国のLGBTQの人々の中で最大のマジョリティーということになるはずなんだけど、そのわりにバイセクシュアルの不可視化がなかなか改善されていないのはなぜなんでしょうか。あと、同調査ではLGBTQの人々の半分以上(55%)が女性だったそうなんですが、にもかかわらず、LGBTQコミュニティーの中でもっともお金と発言権を持っているのはいつだってゲイ男性だよね。結局、頭数よりも権力差がものを言うってことなの?

カナダのレインボー横断歩道が設置後1日たたずに汚される

Rainbow crosswalk vandalized shortly after being painted by students | Saskatoon StarPhoenix

カナダのサスカチュワン郡にあるÉcole Harbour Landing Schoolという学校の子供たちがレインボーカラーでペイントした横断歩道が、設置後24時間もたたないうちにタイヤ痕をつけられて汚されてしまったそうです。

写真はこちら。

この歩道をレインボーカラーに塗ったのは同学校のジェンダーとセクシュアリティ―同盟(Gender and Sexuality Alliance /GSA)で、目的はジェンダーの多様性を支持すると表明し、学校をもっと安全な場所にすることにあったとのこと。残念ながらレインボーカラーのものに対するこの手の汚損行為はよくあることで(例1例2例3)、逆に言うと、だからこそまだまだこういうアートがたくさん必要なんだと思います。

W杯でロシアを訪れたゲイカップルが暴行され重傷

Thugs attack gay World Cup fan, in hospital with severe brain injury

サッカーW杯のためロシアを訪れていた同性カップルが、サンクトペテルブルクでふたり一緒にタクシーに乗った後、暴漢に襲われたというニュース。この襲撃でカップルのひとり、O Davriusさんがけがをして病院に運ばれ、深刻な脳挫傷、頭部外傷、上顎骨折と診断されたそうです。ふたりは電話やお金も奪われており、当局は事件に関与があるとみられるIsmet GaidarovとRasul Magomedevという20代の男ふたりを逮捕したとのこと。

ロシアのフーリガンたちは以前から、W杯を見に来るゲイのサッカーファンを殺すと脅していました。だから本当に洒落にならないんですよこういうの。

ちなみにロシアの「チェブラーシカTV」が、モスクワで男性同士で手をつないで歩くと何が起こるか実験したときの動画はこちら。ののしられるわ体当たりされるわつきまとわれるわと、大変なことになってます。ミソジニスティックな国では女性ががっつんがっつん体当たりされている一方、ホモフォビアが強い国では、ゲイとみなされた男性が似たような目に遭ってるわけね。

Netflix、『サイテー! ハイスクール』打ち切りの理由を明かす

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Netflixのヴァイスプレジデント、シンディ・ホーランド(Cindy Holland)氏が、ドラマ『サイテー! ハイスクール』の打ち切りの理由を明かしています。簡単に言うと、第1話を最後まで見ずにやめた人が多かったからなんだそうです。そういう基準で決まっていたとは!

詳細は以下。

The Netflix Binge Factory

上記リンク先のホーランド氏の説明によると、『サイテー! ハイスクール』がシーズン1で打ち切りとなった理由は主に以下ふたつであるようです。

  • コアな視聴者以外にアピールしなかった
  • 視聴者数が少なかっただけでなく、第1話を最後まで見た人の数が平均以下だった

ちなみにNetflixにとっては、視聴者数が少ないのもよくないことだけれど、離脱率が多い(ひとつのエピソードの途中でやめて続きを二度と見ない、数話だけ見てシーズンの残りを見ないなど)というのはそれと同じかもっと悪いことなんだそうです。Netflixの最高コンテンツ責任者テッド・サランドス(Ted Sarandos)氏は、同社が視聴者の行動のどんな点を重視しているかについて、以下のように説明しているとのこと。

  • 必ずしも重視されてはいないこと
    • 配信開始後数日以内に視聴者がシーズン全部をビンジウォッチングするかどうか
  • 重視されること
    • 配信開始後4週間以内にどれだけの人がシーズンを最後まで見たか
    • その番組がNetflixに加入するきっかけになっているかどうか

ただしデータだけですべてが決まるわけではなく、『ワンデイ 家族のうた』のようにラテン系、LGBT、女性など5~6種の異なるグループに強く好まれるという「ユニークな価値」があるということで継続が決まったケースもあるとのこと。なるほどねえ。『サイテー! ハイスクール』は、どちらかというとコアな支持層が性的少数者に一極集中していそうだし、その点でも不利だったのかも。思えば『Sense8』がS2で打ち切られたのも、S1E1がややこしすぎてそこでやめた人が多かったとか、LGBT+には支持されてもそれ以外の受けがいまいちだったとかいうことだったのかも。とりあえず今後、好きな番組を応援するには、少なくとも(1)第1話の途中で離脱しない、(2)配信開始後4週間以内にシーズンを完走する、の2点を心掛けねばと思いました。

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』が新イントロ動画を発表

Orange Is The New Black (Music From The Original Series)

Netflixドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』が、シーズン6のイントロ動画(オープニング・クレジッツ)を公開しました。これまでと曲は同じ、映像も大半は同じ、でも、話の進展に合わせて変えられているところがあるんです。

ざっと見たところ、新しく加わっている映像は3つあるようです。そのうちのひとつがかなり怖いんですけど、あれはリッチフィールドに新しく設置されるってことなの? どうなの?

トマトメーターで選ぶ2010年代のLGBTQ番組ベスト10(PRIDE調べ)

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2010年代のLGBTQ番組から、レビューサイトRotten Tomatoesのトマトメーター(プロ批評家による肯定的レビューのパーセンテージ)を基準に選んだベスト10のリストをPRIDEが発表しています。

詳細は以下。

The 10 Best LGBTQ TV Shows of the 2010s, Ranked By Rotten Tomatoes

まず上記リンク先によれば、ベスト10は以下のようになる模様。カッコ内がトマトメーターの数字です。

  • Banana(100%)
  • 『フォスター家の事情』(97%)
  • 『クィア・アイ』(96%)
  • Pose(96%)
  • 『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(91%)
  • Cucumber(91%)
  • Looking(90%)
  • 『ふたりは友達? ウィル&グレイス』(86%)
  • 『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』(86%)
  • 『Sense8』(86%)

「『Sense8』、『ウィル&グレイス』と同スコア取っても打ち切りだったのか……」とか、「『Pose』、早くも4位か。すげー」とか、「OITNBより『フォスター家』が上? 10代のグダグダで中だるみした部分は評価に影響しなかったの?」とかいろいろ考えながら眺めてると楽しいです。1位のBananaが今のところ日本では見られないのが残念、『ブラックパンサー』のシュリちゃんことレティーシャ・ライトが出てるから、見たい人はいっぱいいるでしょうにね。

ところで、個人的には上記ランキングに『ワンデイ 家族のうた』が入っていないのが不思議でした。トマトメーター98%なのよ、あの番組。メインキャラのひとり、エレナがレズビアンであることが話の大きな柱になってるのに、なぜカウントされてないんでしょうか。よく見たら『スーパーガール』(94%)も『ワイノナ・アープ』(90%)も『パーソン・オブ・インタレスト』(92%)も『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(87%)も入ってないし、女性を愛する女性が登場するドラマに関してはわりと抜けが多いリストだと言えるかもしれません。ひとつの参考にはなるけど、Autostraddleの以下の記事なども併せて見るとなおよろしいかと。

大胆でクィアで最高〜ドラマ『Sense8』完結編感想(ややネタバレ)

Sense8: Season 1 (A Netflix Original Series Soundtrack)

納得の完結編

NetflixオリジナルSFドラマの完結編スペシャル。2時間半の枠の中で畳むべき風呂敷を畳み切り、後日譚に思いきって時間をかけるという大胆な構成がすばらしかったです。テーマの現代性にも、みなぎるクィアネスにも脱帽。

メリハリの利いたシナリオ

『Sense8』は、感覚と能力を共有できる新しい人類「ホモ・センソリウム」(別名『センセイツ/sensates)と、彼らを追う何者かの戦いを描くSFアクション。もともと全5シーズンの予定だったのにシーズン2で打ち切りとなり、熱心なファンたちの呼びかけでこの2時間半の完結編(シーズン2第12話『愛はすべてに打ち勝つ』)の制作が決まったという経緯を持ちます。主人公だけで8人もいて、世界10ヶ国以上のロケで作られてきたこの壮大な話をわずか150分でどうまとめるのかと期待半分、ハラハラ半分で見たのですが、いやあ、すごかった! マジカルな手腕で無事結末まで漕ぎつけていて、しかも、面白かった!

まず、脚本がよく整理されていたと思います。謎解きの部分は老賢者(的立ち位置のキャラ)との会話でサクサク片づけ、それで浮かせた時間を約30分ものエピローグにぶちこむという思い切った構成に、まず拍手。また、ジョジョの第5部なみにヨーロッパを移動しまくる展開でありつつ、話の軸を一貫してヴォルフガング(マックス・リーメルト)とウィスパーズ(テレンス・マン)の人質交換に置いてわかりやすくしたのも良策だったと思います。そうは言っても、すべて終わってから「そういえばあのキャラのあのサブプロットはどうなったの……?」と思う部分もあるにはあるのですが、そこまで全部追っていたらとてもオチまでたどりつけなかっただろうということもわかるので、この割り切った話運びはやはり正解だったと思わざるを得ません。個々のサブプロットは、ファンが各自脳内ファンフィクションで補完すればいいのよ!

また、話の枝葉を刈り込みながらも、アクションや笑いどころや、これまでの名シーンの振り返りには惜しみなく時間を割いているところもよかったです。完結編で突然出てきた秘密のクラスター(センセイツのグループ)についての説明はごくあっさり済ませる一方で、フェリックス(マクシミリアン・マウフ)がナポリのピザを激賞する場面や、ダニ(エレンディラ・イバラ)の意外な特技や、ムン刑事(ソン・ソック)の軽口などは決してカットしないというこのバランス感覚を、あたしは支持します。お話を前に進めていくのは設定資料の読み上げ大会ではなく、キャラたちの生き生きした動きですからね。

手堅くも新しいエピローグ

前述のエピローグは2部構成になっていて、前半ではノミ(ジェイミー・クレイトン)とアマニタ(フリーマ・アジェマン)の結婚式が、後半ではメインキャラたちの日常への回帰(と、彼らがこれまでの旅で得た神秘的な力)が描かれます。婚礼というモチーフで秩序・調和の回復を表すのも、ヒーローたちが大切な物を得て帰還するところで話の幕を閉じるのも、言ってしまえば非常に古典的な手法です。その古典的な物語構造を使って、「分断はアカン」、「人と人をつなぐものは、人と人を断絶しようとする力より強い」というとびきり現代的なテーマを力一杯打ち出しているところが大変面白いと思いました。こういうところが手堅いよね、ラナ・ウォシャウスキー。

ちなみに、よく見るとノミとアマニタの婚礼には「インターレイシャルな、しかもシスジェンダー女性とトランスジェンダー女性のレズビアン・ウェディング」という新しさがあり、ドレスのデザインやウエディングアイルでのエスコート役も全然伝統的ではなかったりします。式の後、日常に戻ったメインキャラたちが経験する歓喜も、早い話がS1E6でずいぶん話題になった肌色多めのシーンの拡大バージョンであって、ジェンダーの面でもセクシュアリティーの面でも少しもクラシカルではありません。この部分はルーベンスの宗教画のような美しい映像で描かれているのですが、これもおそらく古臭いMale Gazeによるポルノ扱いを拒否するという意図あってのことなんじゃないかと自分は思いました。このような細部に宿る新しさも、またよかったと思います。

みなぎるクィアネス

完結編を2回通りぐらい見終わった後、復習としてシーズン1からひと通り見直していて、しみじみ思いました。「このドラマ、従来のシスヘテ男性目線の撮り方だったら絶対終盤で『ロボトミー化されてモンスターと化したノミをアマニタが泣く泣く殺し、なきがらにとりすがって号泣』みたいなくっだらないメロドラマにされてたよなー……」と。

でも、『Sense8』は最後までそんな展開にはなりませんでした。この作品では愛し合うレズビアンカップルは最後まで殺されず、単なる多様性アピールのためのサイドキック扱いもされず、作品全体のテーマを担うエピローグで堂々と主役を張っているんです。この2018年にあってさえ、これがいかに画期的なことか。おまけにそのエピローグで、シーズン1第1話のプライド・イベントのエピソードで出てきたふたつのアイテムがそれぞれ重要な役割を果たしているのを見て、もうあたしゃ泣きそうになりましたよ。この分断と対立の時代の中、非主流派が持つ可能性や希望をこうやってたたえるためにこそ、ここまでの24話があったのだと思います。

まとめ

限られた条件の中、思い切った取捨選択でここまでビューティフルなエンディングに着地してみせた手腕にはもう賛辞しかありません。クィアなキャラの扱いもよかったし、テーマも今の時代にこそ必要なものだしで、大変納得のいく完結編でした。おすすめ。