石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

ケイト・マッキノンの『キャロル』パロディーがあまりにも秀逸すぎる

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2016年2月27日のインディペンデント・スピリット賞受賞式で、ホストのケイト・マッキノン(Kate McKinnon)が、レズビアン度メガ盛りの『キャロル』パロディーを披露しました。場面はあの「手袋ランチ」で、脇役も超豪華。

動画はこちら。

マッキノン演じるキャロルは口調やしぐさこそブランシェット感に充ち満ちているものの、のっけから「昔ながらの、女同士の軽いランチでお礼がしたいと思ったの……何もたくらんでないのよ、全っ然」とオリジナル台詞で飛ばしまくっています。明らかにテレーズを口説き落とす気満々な彼女の前にはしかし、空気を読まないパキスタン人ウエイター(クメイル・ナンジアニ、Kumail Nanjiani)という障壁が立ちはだかっていたんでした。

このウエイター、クメイルがまずテーブルの横でものすごくまずそうな「50年代のスペシャルメニュー」を延々読み上げるため、ランチは全然ロマンティックな雰囲気になりません。気を取り直したキャロルが、テレーズの姓がチェコ("Czech"、英語読みだと『チェック』)のものだということにからめた「んまあ偶然、チェックアウトカウンターで支払いをしてあなたを連れ出そうと(check you out)思ってたのよ……」と渾身の誘惑ジョークを放つも、やはりクメイルのボケで台無しに。キャロルの口説きは一向にはかどりません。

それでもキャロルは首尾良く「テレーズ」というファーストネームを聞き出し、「天から降ってきた人」というあの名文句を決めるですが、それもちゃっかり横に座っていたクメイルの「名前といえばわたし、クメイルって名前のせいでインド人だと思われやすいんですが、パキスタン人なんです。新しい国なんですよ、50年代だから」という50年代ジョーク(パキスタンが英領インドから分離したのは1947年)のきっかけになるだけでした。耐えられなくなったマッキノン版キャロルが、ついにクメールに正面から言い放つ台詞がすごい。

「今(テレーズを)誘惑してる真っ最中だから、どいてもらえるかしら!?」

"I am mid of the seduction, would you get out of here?"

「あたしはレズビアンで、この子ももうじきオチそうなのよっ。だからすっこんでなさいっ」

"I'm a freakin' lesbian and she's about to be one, too. So, get the hell out of here."

何がすごいって、パロディ元となった本家「手袋ランチ」の場面では、同性愛や誘惑はあくまで暗黙の了解のもとにサブテキストとして描かれるものだったのに、というか映画全体でも「レズビアン」や「誘惑」という単語は一度たりとも出てきていないのに、このパロディではそれをあっさりメインテキストに据えてみせたということ。さすがはケイト・マッキノン。あ、念のために言っておくけど、この人オープンリー・レズビアンのコメディエンヌですよ。

さて、事態をようやく把握したクメイルは動転し、こんなことを言い出します。

「今は50年代なんですよ、びっくりするじゃないですか! ここはそんなたぐいの場所じゃありません!」

"It's the 1950s, you know, you're blowing my mind! This is not that kind of place!"

ここだけ見ればちょっぴりホモフォビックにも受け取れるでしょう? でも、そうじゃないんです。マッキノン版キャロルは、クメイルにこう言い返していますから。

「クメイル、ここはそんなたぐいの場所なの。あなたレズビアン・レストランで働いてるのよ」

"Kumail, it is that kind of place. You work in a lesbian restaurant."

そして実際、店の奥では実際ワンダ・サイクス(Wanda Sykes)とジェーン・リンチ(Jane Lynch)がランチを食べていたんでした。ええ、どちらもオープンリー・レズビアンのコメディエンヌです。クメイルは大変レズレズしい店名を読み違えていたため、そこがレズビアン・レストランだと気づいていなかったというオチ。ここでジェーン・リンチが言う台詞がいいよ!

「早く50年代が終わってほしいわよね」

"I can't wait for the 50s to be over."

これもまた映画『キャロル』の本質だよねえ。

映画『キャロル』には、「50年代はレズビアンにとってはろくでもない時代で、同性愛は病気だと決めつけられていたけれど、でも実際には(特にニューヨークのような大きな都市ならば)出会いもあれば恋の歓喜もあり、同じセクシュアリティの友達と笑い合うことも、好きな人との未来を選び取ることもできたんだ、女同士だというだけでいきなり悲劇と決めつけてんじゃないわよっ」というメッセージが込められていると思います。そして、このほんの4分強の爆笑もののパロディーもまったく同じことを言っているとあたしは受け取りました。やっぱりすごいわ、ケイト・マッキノン。尊敬するわ。