石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

移民トランスジェンダー児童(12歳)がいじめられ自死 スペイン・カタルーニャ州

Acoso en la Escuela, ¡no!

hispanicla.com

スペイン・カタルーニャ州にある人口約6000人の町サジェン(Sallent)で、アルゼンチン移民の12歳のふたごがいじめを理由に自死をはかり、ひとりが死亡。もうひとりは重傷を負いました。亡くなったイバン(Iván)*1さんはトランスジェンダーで、ことばの違いのほか、性的アイデンティティーを理由とするいじめにも遭っていたとのこと。

亡くなったイバンさんとふたごのきょうだいのレイラ(Leira)さんが自死をはかったのは、2023年2月21日の午後3時。ふたりが両親と弟ともどもアルゼンチンから移民してきてから、まだ2年も経っていませんでした。

ふたりが通っていた学校、instituto Llobregat de Sallentのある女子生徒はスペイン語圏のメディアの取材に対し、主に3人の男子がいじめを煽って、集団でイバンさんたちを「アルゼンチン人」と呼んたり、ふたりのアクセントやイバンさんの性的アイデンティティーをばかにしたりしていたと言っているとのこと。いじめグループはイバンさんらを取り囲んで殴ったりもしていたのですが、学校はいじめを認識していたにもかかわらず、いじめっ子に立ち向かって身を守ろうとしたふたごの方を非難したり罰したりして終わりだったんだそうです。

以下、ふたりの遺書からちょっと邦訳してみます。まず、イバンさんの方。

「学校でいじめられるのに疲れました、もう耐えられません。幸せになりたいけど、この先一生苦しむことは明らかなので、もう続けるのをやめる決心をしました」

“Estoy cansada de que me hagan bullying en la escuela, no lo soporto. Yo quiero ser feliz, pero evidentemente yo esto lo voy a sufrir el resto de mi vida y tomé la decisión de no seguir’’

続いて、レイラさんの方。

「みんな、ごめんなさい。わたしがきょうだいを愛していることは、みんな知っていると思います。わたしは彼女を苦しめるいじめのすべてを見ました。彼女が決めたことをします。彼女が行きたいところに一緒に行きます」

“Disculpas a todos. Ustedes saben lo que yo amo a mi hermana. Yo vi todo el bullying que sufre ella. Voy a hacer lo que ella decida. La voy a acompañar a donde ella quiere”

一命をとりとめたレイラさんは、3月16日付の報道で、「人工呼吸器が外され、意識が戻って、両親を認識できている」が「まだきょうだいの死については知らされていない」と伝えられています。ふたごがいじめられていた学校のJosep Olivella校長は、3月14日に辞職。イバンさんの元クラスメイトたちは学校の机に「イバン、大好きだよ」、「きみがいないと寂しくなるよ」、「安らかに眠って」などのキレイなメッセージをぎっしり書き込んでいるとのこと。……生きてる間に言ってやれよ、そういうことは。校長も生きてる間に責任とれよ、死んでからじゃなく。

排外主義やトランスフォビアが世界規模で広がっている今、著名人らの「マイノリティの権利を認めたらこんな怖いことが起こる!」的な妄想ベースの発言はさんざん報道される一方で、この事件みたいな、現実世界で本当に起こっているひどいことはろくに伝えられてないとあたしは思います。せめてうちのブログを読んでる人には知ってほしい、移民いじめとトランスいじめのせいで、12歳のこどもが亡くなったんだよ。こんなこと終わりにしなきゃ駄目だよ。

*1:Vanguardiaによると、イバンという名前は本人が亡くなる3週間前に自分で決めて、レイラさんや友達に伝えたもので、学校ではそれを理由とするいじめにも遭っていたようです。両親は「イバンと名乗ってはいなかった、あの子の名はアラナ(Alana)だ」と主張しているとのこと。

米ユタ州上院、子供へのコンバージョン・セラピー禁止を全会一致で可決

禁止のサイン

thehill.com

2023年2月17日、米ユタ州上院が、医療の有資格者が未成年者に対しコンバージョン・セラピー(性的指向やジェンダー・アイデンティティーを変えることを意図した、科学的根拠がなく有害な行為・処置)を実施することを禁ずる法案(House Bill 228)を可決。これにより、(いくつかの例外措置はあるものの、)違反者は最高1年の懲役および2500ドルの罰金を科され得るようになるとのこと。

あのユタ州で。2008年に大量の資金をつぎこんでカリフォルニア州の同性婚を潰したモルモン教会の総本山、ユタ州で。大学に「同性同士の交際禁止」というルールがあったり、10代のゲイカップルが「うちの街でゲイなんか見たくない」と殴られて病院送りにされたりしてるユタ州で。そしてつい先日、トランス・キッズへの二次性徴抑制療法や性ホルモン療法が禁止されてしまったばかりのユタ州で!

もう本当にびっくり。とりあえず、ことコンバージョン・セラピーに関しては、政治が宗教的なトンチキに押し流されなかったってことなのかしら。なお同州のLGBTQ団体Equality Utahは、この法案可決を「ユタのLGBTQの歴史における驚くべき瞬間」と喜ぶ声明を出しています。

参考:コンバージョン・セラピーとは?

コンバージョン・セラピーで「治療」と称してどんなひどいことがおこなわれるかについては、上記のHB228で「具体的にこういうことを未成年にやったら違法」と説明している部分がわかりやすいと思いました。箇条書きにしてまとめると、以下のような行為です。

  • 吐き気、嘔吐その他不快な身体的感覚を生じさせる嫌悪療法
  • 電撃けいれん療法または経頭蓋磁気刺激を含む、電気ショックまたはその他の電気療法
  • 治療の一環として自慰をさせる、または自分以外の人の体を触らせる
  • 自傷行為、またはみずから自分に苦痛を加える行為

書いててだんだん嫌になってきますが、これ全部、歴史的にゲイやレズビアンやトランスピープルがやられてきたことですからね。なお専門家の見解や、経験者の談話は以下をどうぞ。

front-row.jp
front-row.jp
www.cosmopolitan.com
www.huffingtonpost.jp

一方その頃日本では

既に報じられている通り、自民党議連で、同性愛は「精神の障害、または依存症」「回復治療の効果が期待できる」などとする非科学的な記述のある文書が配布されてるんですよね日本。

news.yahoo.co.jp
diamond.jp

いったい何周周回遅れなんだよわが国。少なくとも疾病概念やコンバージョン・セラピーに関してはユタ州より遅れてるってことが、これで確定しちゃったわけですが。

スペインがトランス法("ley trans")可決 治療や診断書なしで性別変更可能に

「トランス法」を求める旗を持っている人たち

es.euronews.com

スペインがトランス法("ley trans")可決 治療や診断書なしで性別変更可能に

2023年2月16日、スペインがトランス法("ley trans")を可決。これにより、同国の16歳以上の人は法的な性別変更の際、性別違和を証明するために医師や精神分析医による治療を受ける必要がなくなるとのこと。

もう少し具体的に「何がどう変わるか」をまとめると、こんな感じです。

  • これまで
    • 性別変更するためには、性別違和を証明する書類(医療機関によるもの)と2年間のホルモン治療の証明書の提出が必要。証明書を申請できるのは成人(スペインの成人年齢は18歳)のみ。
  • これから
    • 16歳以上:証明書の提出不要。行政上の手続きで性別変更可能
    • 14~16歳:法的な保護者の同意があれば性別変更可能
    • 14歳以下:裁判所の承認があれば性別変更可能

さらに言うと、この法により、人の性的指向やジェンダー・アイデンティティーを変えさせようとする「転向療法」(コンバージョンセラピー)も禁止されるんだそうです。画期的!

スペイン政府の、性の多様性およびLGTBI*1の権利局(Dirección General de Diversidad Sexual y Derechos LGTBI)によるコメントはこちら。

ざっくり訳:

本日スペインは、LGBTI運動の何年もの戦いのあとで、ついにトランスジェンダーの人々のための、そしてLGTBIの人々の権利保障のための、本物の効果的な平等法を手に入れました。

わたしたちは今日、より良い社会を生きているのです。

すべての人におめでとうを言います!

Hoy, tras años de lucha del movimiento LGTBI, por fin España tiene una Ley para la Igualdad Real y Efectiva de las Personas Trans y para la Garantía de los Derechos de las Personas LGTBI. Hoy vivimos en una sociedad mejor ¡Enhorabuena a todes!

※重要※ 「診断書なしの性別移行を認めたら女性用のスペースが危険にさらされるのでは」という不安をお持ちの方へ

以下のファクトチェックがご参考になるかと思います。

trans101.jp

trans101.jp

※重要※ 「未成年に性別移行させたら/性別移行の手続きを簡単にしたら、後悔する人が増えるのでは」という不安をお持ちの方へ

以下の情報がご参考になるかと思います。

trans101.jp

*1:Iはインターセックスを表しています。

ブラック・アイド・ピーズ、虹色のアームバンドをつけてポーランド国営放送に出演

Monkey Business

www.thepinknews.com

米ポップバンドのブラック・アイド・ピーズ(The Black Eyed Peas)が、同国の国営放送の大晦日コンサート"New Year's Eve of Dreams"に、レインボーカラーのアームバンドをつけてライブ出演。もちろんこれは反LGBTQ+政策をとる同国政府への批判で、右派は「夢の大晦日ではなく倒錯の大晦日だ」などと言って怒ってるそうです。やるなあブラック・アイド・ピーズ。

国勢調査で初めてトランスとノンバイナリーをカウント イングランドとウェールズ

カウンター

www.theguardian.com

イングランドとウェールズで、220年の歴史を持つ国勢調査(census)で初めて、トランスジェンダーとノンバイナリーの人々をカウントしたというニュース。結果として、性別時に割り振られた性別とは違うジェンダーを持っていると答えた人は回答者の0.5%だったそうです。これは2022年のIpsosによる調査結果よりは少ない数字だけれども、一方で、(サード・ジェンダーを調査対象に含めている)カナダの国勢調査で得られた比率に近いとも言えるとのこと。

そもそも人数を把握しなきゃ、生きてる人間の実際の生活やニーズに即した政策は作れないから、こういう調査は必要よね。と、国勢調査のたびに国家から「いないことにされている」レズビアンのあたしとしては思うわー。

性的少数者狙った銃乱射予告で男を逮捕 米フロリダ州

銃器

abcnews.go.com

米国フロリダ州の男が、LGBTQに対する集団射殺予告をした疑いでFBIに逮捕されたというニュース。男はDiscordにライフルの写真を載せてフロリダ州立大学の住所、予告日時、LGBTQの人々への中傷、100人以上が「死ぬだろう」という文言などを書き込んだとして起訴されているそうです。

逮捕されたショーン・マイケル・アルバート(Sean Michael Albert)容疑者はフロリダ州立大の学生で、FBIの調べに対し、自分の投稿は「皮肉」、「風刺」、「冗談」のつもりだったと話したとのこと。一方、同容疑者のルームメイトやアパートメントの管理人、フロリダ州立大のセキュリティ管理者は、容疑者には「暴力の前歴と厄介な行動のパターン」があったと言っているとの由。

ハインリッヒの法則じゃないけど、「パルス」や「Club Q」での乱射事件の背景ではこういう事件が山ほど起こってるんだろうなあ。何度も実際に虐殺されているコミュニティへの殺害予告をネットでばらまくのはそれだけでれっきとした加害行為なので、連邦法できっちり裁かれてほしいです。

ケンブリッジ辞典、「男」「女」の項目にトランス含める

edition.cnn.com

ケンブリッジ辞典(Cambridge Dictionary)が、「男」「女」の項目をアップデートし、トランスジェンダーの人々が含まれる説明を採用。たとえば「女」の項では、第一義が「成人した女性の人間」、第二義が「成人で、生まれたときには別の性別だと言われたかもしれないが、女性として生活しており女性のアイデンティティーを持っている人」という記述になったとのこと。

ケンブリッジ、ほぼ西英しか使ってないから全然気づいてなかったわ。今試しに英英に切り替えてみたらほんとに上記の通りだったので、"woman"のページのスクリーンショットを取ってみました。

例文までついてて親切だなあ。このアップデートは(やっぱり)右寄りメディアに叩かれているとのことですが、日本の辞典編纂者の飯間浩明氏が以前ツイートしていたように「辞書は語を『定義』するものではなく、世の中の用法を観察し、『説明』するもの」なのなので、叩く右派の方が間違ってると思います。

「クラブQ」銃乱射事件で容疑者を阻止した客のひとりはトランス女性 米国・コロラド州

2022年11月19日に米コロラド州のLGBTQナイトクラブ「クラブQ」で起こった銃乱射事件で、容疑者を阻止した客のひとりについて、情報がちょっと混乱しているみたい。当初「ドラァグのパフォーマーがハイヒールで容疑者の顔を踏みつけていた」とする報道があったのですが、その後、事件の夜同クラブのショウに出演していたという人から、「(容疑者をハイヒールで踏んでいたのは)ドラァグクイーンではなくトランス女性だった」として訂正を求める声が出ています。古い情報をそのまま拡散するとミスジェンダリングに加担することになりかねないので、気をつけましょう。

追加情報まで含めて全体の流れがわかりやすい報道は、このあたり。

www.tmz.com
www.lgbtqnation.com

そして、初期に流れた、「ドラァグクイーン」または「ドラァグパフォーマー」が容疑者をハイヒールで攻撃していたとする報道はこのへんです。

www.nytimes.com
people.com

この「ドラァグが容疑者を蹴ってた(あるいは踏んでた)」説は、容疑者をとりおさえた客のひとりで復員軍人のRichard Fierroさんが、加勢を頼んだ相手のことをショウの出演者と勘違いしていて、インタビューでもそのように話していたことから生じた誤解のようです。

Fierroさんは上記動画で、容疑者を引きずり倒した後のことをこんな風に説明しています。

前にいた若いのに、「こいつの頭を蹴れ、頭を蹴り続けろ」と言ったんです。ショウのパフォーマーのひとりが通りかかって……走って通り過ぎるところだったんで、その人に「こいつを蹴れ、こいつを蹴れ!」と言ったんですよ。で、彼女はハイヒールでそいつ(容疑者)の顔に一発くらわせた。

I told the kid in front of me, "kick him in his head, keep kicking him in his head." One of the performers walked by... was running by and I told her, "kick this guy, kick this guy," and she took her high heel and stuffed it in his face.

Fierroさんは少なくともここでは一度も「ドラァグクイーン」ということばは使っていません。が、New York Timesは上記の場面を「ドラァグのダンサーのひとりが銃撃犯をハイヒールで踏みつけた」と描写。Peopleは、見出しで「ドラァグパフォーマー」が銃撃犯を止めたという表現を採用しました*1。そんなこんなで巷には、「警察よりドラァグクイーンの方が勇敢」とか「学校にはドラァグクイーンより警官を入れた方がいいと思ってる共和党員は間違ってる」のようなツッコミが多数生まれることに。

しかしながら、事件当夜「クラブQ」でショウのホストをしていたというドラァグクイーンのDel Lusional(@UnluckyBanshee)さんが11月22日、以下のようなツイートを発表したんです。

ざっくり訳:

私の命の恩人のひとりで、銃撃者の顔面を踏みつけていたのは、ドラァグクィーンではなくトランス女性です。トランスフォビックな襲撃に心痛む今というときに、トランス女性をドラァグクイーンと呼ぶのはやめましょう。

The one who saved my life and stomped the shooter’s face in was not a drag queen, she is a trans woman. Let’s not call trans women drag queens during this time of grieving over a transphobic attack.

これもはっきりさせておきたいのですが、私は、リチャードは彼女がドラァグのパフォーマーではないということを知らなかったのだと思います。でも今、わたしたちはそのことがわかっているのですから、訂正しようじゃありませんか。

I also want to make it clear, I don’t think Richard knew that she’s not a drag performer. But now that we know, let’s correct it.

危なかった。初期報道を見た時点で反射的に「アンチドラァグな共和党ザマアミロ」と思っちゃったあたしのようなおっちょこちょいこそ気をつけねば。この事件については、他にも「アルドリッチ容疑者は自分はノンバイナリーで代名詞はthey/themだと言っている(と弁護団が主張)」というニュースが出たかと思いきや、すかさず「ノンバイナリーだという記録は皆無/両親・親族・友人・隣人は同容疑者のことをhe/himで表現している/同容疑者は"f*ggot"という罵り言葉をよく使うホモフォーブだった」という報道が出たりもしていて、ずいぶん情報が錯綜しています。大きい事件であるだけにいっそう、継続的かつ網羅的にニュースを読んでいく必要があると思います。

*1:今後訂正が入るかも?

ゲイ登山家ら、「プーチン峰」にレインボーフラッグ設置

天山(ティエンシャン、テンシャン)山脈に存在する、ロシアのプーチン大統領の名前を冠した峰に、ゲイの登山家らが登頂。ロシア政府によるクィアフォビックな行為への抗議として、プライド・フラッグなどを設置しました。

詳細は以下。

escandala.com

この「プーチン峰(Putin Peak)」はキルギス共和国にあり、数か月前にはウクライナ戦争に抗議するロシア人の登山家によってウクライナの旗が飾られたりもしていたのだそうです。その旗は数日後に取り去られてしまったのだそうですが、今回同峰に登ったグループは、「非常に到達が困難な」鋭鋒にプライド・フラッグとウクライナの旗の両方を設置してきたとのこと。おかげでこれらの旗は「どこから見てもよく見えるが、取り外すのはたいへん難しい」という状態になったんだそうで、いやはや、すごいな!

写真は以下をどうぞ。

なお、このアクションはクィアなクライマーたちが主催している「Pink Summits」というキャンペーンの一環として行われたもの。「Pink Summits」のチームは、

  • LGBTIQ+の可視化のため、7大陸最高峰(Seven Summits)に登頂してレインボー・フラッグを掲げる
  • 地域のLGBTIQ+コミュニティと協力して、登山アクティヴィストのワークショップを開催する

などの活動をおこなっています。たとえばキリマンジャロ山に登ったときの写真は、こちら。

ますますすごいな。あたしら黙ってればいないことにされるし、口を開いて抗議すれば「俺/私たちマジョリティが気持ちよく聞き流せる程度以上の抗議はしてはならん、さもないともっと差別するぞ」みたいに*1脅されるし、かといってそこでおとなしくすれば「差別はない」「現状に満足している」とかなんとか決めつけられるから、こうやっていろんなかたちで可視化の取り組みをしてくことが大事よね。尊敬するわ。

*1:実際にはこのまんまの言い回しではなくて、「マジョリティに嫌われない方があなたたちのため」だの「私は差別しないけど他の人たちが……」だのというロジックで自己保身をはかりつつ(はかれてませんけど)こういう主張をする人が多いと思います。

4日間で3人のトランス女性が殺される メキシコ

メキシコで2022年9月下旬、わずか4日のあいだに3人ものトランス女性が殺害されました。それも、全部別々の州で。

詳細は以下。

agenciapresentes.org
agenciapresentes.org

上に貼ったリンクの記事からこれらの事件の様子をまとめると、こんな感じです。

  1. 被害者:ルナ・フローレス(Luna Flores)さん(セックスワーカー、30歳)
    • 日時:2022年9月25日
    • 場所:ゲレーロ州イグアラ
      • 首・胸・顔を刃物で攻撃されて重傷を負い、バーの外から救急車を呼ぶ
      • 救急隊が駆けつけたときにはもうバイタルサインがなかった
      • セックスワーカーとして働いていたバーで、2人の男性と口論になっていたという証言がある
      • 容疑者が拘留されたが、地元活動家は「ここの検察はきわめてトランスフォビック・ホモフォビックなので、彼は罰されない可能性が高い」と言っている
  2. 被害者:イサベラ・アルバレス(Isabella Álvarez)さん(宅配会社勤務、25歳)
    • 日時:2022年9月29日(発見日)
    • 場所:グアナフアト州レオン
      • 9月27日に勤務先に出社せず、同僚や家族も連絡がとれなかった
      • 同僚・家族らがアパートメントを訪れ、うつぶせで倒れている遺体を発見
      • 遺体には暴力をふるわれた痕跡があり、推定死因は窒息(首の周りにケーブルが結ばれていた
  3. 被害者:ロサ・サルバッヘ(Rosa Salvaje)さん(飲食業、トランスアクティヴィスト、50歳)
    • 日時:2022年9月29日
    • 場所:オアハカ州ピノテパ・ナシオナル
      • 自宅兼店舗からの銃声に近隣住民が気付き、親族が遺体を発見
      • 検察庁は殺人事件として捜査しているが、「ジェンダー・アイデンティティを理由とする憎悪犯罪」という加重要素にもとづいた調査がされるかどうかは発表されていない

ちなみにメキシコは、トランスの人々をターゲットにした犯罪がラテンアメリカで2番目に多いといわれている国(1位はブラジル)。知識としては知ってましたが、スペイン語のニュースが(なんとか)読めるようになった今、実感をともなってこのひどい事実を噛みしめています。日本にはこういうニュースってなかなか入ってこないから、自分で直接情報を取りに行けるようになってよかった。いや、辛いですけどね、個々のニュース読むの。

トランス女性活動家が刺され死亡 交際相手の男を逮捕 アルゼンチン

2022年8月21日、アルゼンチンのサンタ・フェで、著名なトランス女性活動家のアレハンドラ・イロニシ(Alejandra Ironici)さんが遺体で発見され、交際相手の男が殺人の疑いで22日に逮捕されました。検察官はこの男を、マチスモやミソジニーによる女性殺し(femicidio)およびトランス女性への憎悪にもとづくトランス女性殺し(transfemicidio)の罪で起訴しています。

詳細は以下。

elpais.com
www.airedesantafe.com.ar

読めば読むほどひどい事件だわ、これ。最初にEL PAÍSの記事の冒頭で遺体が「焼け焦げのある状態で発見された」というところを読んで、てっきり行きずりのトランスフォーブによるヘイトクライム放火殺人かと思いきや(それだって十分ひどいが)、そうじゃないの。Airedigitalの記事によれば、アレハンドラ・デル・リオ・アヤラ(Alejandra del Río Ayala)検察官は事件の経緯について、被害者の交際相手のエクトル・ダミアン・バレロ(Héctor Damián Barrero)容疑者が、被害者の背後から襲い掛かって計46回刺したのち、証拠を隠蔽しようとして遺体に火をつけたと説明しているのだそうです。検察庁はさらに、彼が被害者に性的虐待を加えていたかどうかについても調べているところだとのこと。

イロニシさんは身分証明書の性別変更や、公立病院での性別適合手術、トランス女性としての公立学校教員就任など、さまざまな面でアルゼンチンのトランス・ライツの先駆者でありつづけてきた人。サンタ・フェでは彼女の死を悼み、憎悪によるトランス女性殺しはもうたくさんだ("Basta de transfemicidios")と訴えるマーチが開催されています。

ここでいう"transfemicidio"(トランスフェミシディオ)や、そのもとになった"femicidio"(フェミシディオ)ということばは、日本にはたぶん英語の"transfemicide"(『トランスフェミサイド』)や"femicide"(『フェミサイド』)という単語のかたちで入ってきてるんじゃないかな。でも、概念まで周知されてるとは言い難いと思います。単純に字面だけを見て「トランス女性殺し」や「女殺し」のことだと思ってしまった人たちからの「男/シスジェンダーだっていっぱい殺されているのになぜあいつらだけ声高に権利主張するのか」みたいなイカレポンチな意見、何度か見たことありますもん。で、今回このエントリを書くにあたってどういう訳語を当てたらいいのかと悩んでスペイン王立アカデミーの辞書をひいたら、ものすごくわかりやすい定義が書いてあったので以下に訳してご紹介。


フェミシディオ
1. マチスモ(男性優位を特徴とする性差別の一形態*1)またはミソジニー(女性に対する嫌悪/反感/憎悪*2)のために、女性が男性の手にかかって殺されること。
feminicidio
1. m. Asesinato de una mujer a manos de un hombre por machismo o misoginia.
残念ながらトランスフェミシディオの項は(まだ)なかったんだけど、 El Financieroのこちらの説明がわかりやすいかと。

ジェンダー・アイデンティティによるフェミシディオ、またはトランスフェミシディオとは、トランス女性であるというだけの理由で、憎悪という加重要素をもって行われる殺人事件である。

Los feminicidios por identidad de género o transfeminicidios son los asesinatos de mujeres trans, cometidos con un agravante de odio por el simple hecho de ser mujeres trans.

イロニシさんの死で«¡Basta!»(もうたくさんだ!)と怒っている人たちは、こういうものに対して怒ってるんだということが伝われば幸いです。

*1:かっこ内の説明は、machismo | Definición | Diccionario de la lengua española | RAE - ASALEを和訳したもの。

*2:かっこ内の説明は、misoginia | Definición | Diccionario de la lengua española | RAE - ASALEを和訳したもの。

Twitterユーザ、虹色のおもちゃが「子供にゲイを教え込む」と非難

pop it : fidget toy, poppet popop anti stress anxiety , push pop bubble popper autism special needs , adhd , pop up bubble popping squishy toys ASMR Game

あるTwitterユーザが虹色の恐竜のおもちゃの写真をTwitterに載せ、「子供に(ゲイ/LGTBiについて)教え込む」ものとして非難。たちまち大量のユニークな反論が寄せられています。

詳細は以下。

www.elespanol.com

問題のおもちゃは、TikTokでよく取り上げられて話題になった「バブルポッパー」(またはプッシュポッパー)というもの。シリコン製の気泡を指でプチプチと押し込んで感触を楽しむためのもので、ストレス軽減などに効果があるとされています。遊び方は以下の動画参照。

で、上の動画もそうなんですが、このバブルポッパー、虹色のものがけっこうたくさんあるんです。

そんなわけで、これをして何らかの陰謀だと考えたらしきTwitterユーザが、以下のようなツイートを披露。


訳:

子供のための「おもちゃ」なのか、それとも子供に向けた教化なのか?

"Juguetes" para niños o adoctrinamiento para niños?

いや待てそりゃあねえだろ。虹色のシリコン製恐竜で遊んだからという理由で「そうだ、今日からボクは男の子を好きになろう」と思う子供がいるとでも? だいたい、太陽をモチーフにしたおもちゃで遊んだ子供が自動的に日本やアルゼンチンやウルグアイ大好きっ子になったりはしないし、月と星をあしらったおもちゃを持ってる子供が続々とイスラム教に入信するわけでもないのに、虹色だというだけでいきなり「虹色→虹色の旗→LGTBiの教化!」と突っ走って考えちゃうのはおかしいよ。

Twitterでもやはり、上記ツイートは多くの笑いや反論を呼んでいる模様。以下、El Españolで紹介されているものをいくつか貼って訳してみます。

訳:

「気象上の光学的現象」、それとも「自然の教化」?

"Fenómeno óptico meteorólogico" o adoctrinamiento de la naturaleza?


訳:

ニュートン物理学もゲイの教化だな。子供を物理から遠ざけろ(笑)

Ya saben, la física newtoneana también es adoctrinamiento gay. Alejen a sus hijos de la física lol


訳:

この色も引っ込めるよう要求します🤡🤡🤡

Exijo que se retiren esto colores también

中にはこんな風にていねいに説明している人もいて、頭が下がる思いでした。


訳:

それらの色はLGBTコミュニティのものだというわけではなく、基準の問題だと思います。わたしはそれらは虹の色だと思っているし、わたしの娘たちも、無邪気に、同様に考えていますよ。おそらく問題はおもちゃではないのでしょう、アミーゴ。もしかすると、問題は、そのテーマが頭にこびりついて離れないあなたの考え方なのかもしれませんよ。

Esos colores no le pertenecen a la comunidad LGBT. Es cuestión de criterios pienso yo, para mi, y mis hijas lo ven igual en su inocencia, son los colores del arco iris. Tal vez el problema no es el juguete amigo. Tal vez el problema es tu mente que estas obsecionado con el tema

どれだけくだらない陰謀論でも、信じたい人はたやすく信じちゃうから、こうやっていちいち反論しとくのは大事よね。疲れるけどね。

卒業式のガウンでレインボーフラッグ披露 大学のアンチLGBTQな方針に抗議 米・ユタ州

米ユタ州の、末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)が運営する大学、ブリガムヤング大学の卒業式の檀上で、両性愛者の卒業生が、式典用のガウンの裏地に仕込んでおいたレインボーフラッグを披露。同大学のアンチLGBTQなポリシーに抗議しました。

詳細は以下。

www.today.com

この卒業生、Jillian Orrさんは28歳で、心理学専攻。まずは彼女の卒業式と、その準備の様子がわかる映像をどうぞ。

www.tiktok.com

@jillianoreo Good thing I didn’t have to rely on my sewing skills for this. #byugraduation #byu #lgbtq #lgbt🌈 #pride2022 #justice #sistersarethebest #collegegraduate #exmo #exmormon ♬ How You Like That - BLACKPINK

↑でもちょっと説明されてますが、ブリガムヤング大学には「同性同士の交際は禁止」という方針があり、キャンパス内で同性同士で手をつないだりキスしたりすれば除籍処分にさえなりかねないんです。ちなみにヘテロが同じことをしても、まったくおとがめなし。連邦政府は、このようなポリシーはタイトルIX(『連邦から資金援助を受けている高等教育機関においては、あらゆる面での男女差別を禁止する』という教育改正法)に抵触する可能性があるとして調査を開始しています。これ以外でも、LGBTの権利に賛成した職員が解雇されたり、学生らにホモフォビックな課題をやらせてたりと、とかくアンチLGBTQな話題には事欠かない大学ではあります。

で、同大学に入学した後になって自分がバイセクシュアルだと気づいたJillian Orrさんは、大学に対するステートメントとして、卒業式のガウンの裏にレインボーフラッグを縫い付けることにしたんだそうです。もともとのアイディアは妹さんが出し、お裁縫はお姉さんが協力してくれたとのこと。最高だな、この姉妹。(詳しくは以下の動画をどうぞ)

www.tiktok.com

@jillianoreo #greenscreen Where the idea came from! My baby sister is the mastermind ❤️ #littlesistercheck #sistersarethebest #greenscreen #byu #byugraduation #lgbtq🌈 #exmo #lds #mormon #lgbtqplus #bisexual #bisexualpride🌈 ♬ original sound - Jillian Orr

あと、こういうニュースに日本でもすっごくたくさんつきそうなクソリプの、「そんなに大学の方針が嫌ならなんでそこに入学したんだ」とか「自分がバイセクシュアルだと気づいた時点で転校すればよかったのに」とかには本人が以下の動画で回答してるし、Todayでも説明されてるから、ご興味がおありの方はぜひごらんになってくださいね。

www.tiktok.com

@jillianoreo Reply to @el_jefe_13 Why BYU? Why not leave? Why am I filming in my bathroom? #byugraduation #byu #lgbtq🌈 #lgbtq #exmo #exmormon #bisexual ♬ original sound - Jillian Orr

あたしらマイノリティは、迫害を恐れて隠れてれば勝手に「いないこと」にされるし、黙っていれば「現状のままで何も文句がない」ということにされちゃうから、こうやってステートメントを叩きつけるのは大事よね。拍手。

「学校に『猫自認』の生徒用猫トイレが置かれる」デマを信じた議員がTVで主張 米国・ネブラスカ州

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米国共和党の保守派議員が、「動物自認の生徒のため学校がトイレに砂箱を設置しようとしている」というデマを信じ込み、法案審議中に大真面目に砂箱反対論を披露。この審議はTVで公開されており、同議員はすぐさま批判とからかいの的となって、その日のうちに主張を撤回したそうです。

詳細は以下。

www.theguardian.com

The Guardianによると、上記の「学校に砂箱が設置される」というデマは、"Protect Nebraska Children"というFacebookの非公開グループ内で繰り返し主張されているものだとのこと。ネブラスカ州上院議員のブルース・ボストルマン(Bruce Bostelman)氏は、どうやらこのデマを鵜呑みにしていたらしく、2022年3月22日、法案審議中にこんな発言を披露してしまいました。

まずボストルマン氏の見解では、今時の学校には自分のことを動物だと思って犬や猫の扮装で通学している、"furries"と呼ばれる子供たちがいるんだそうです。もうこの時点でツッコミどころ満載*1*2なんだけど、その続きはさらにヘン。

「この子たちはニャーニャー鳴いたりワンワン吠えたりし、そのやりかたで教師とコミュニケーションをとるのです」とボストルマンは法案審議中に語った。「そして学校は今や、校内に猫トイレを置こうとしているのです。これが衛生的だなんて言えますか?」

“They meow and they bark and they interact with their teachers in this fashion,” Bostelman said during legislative debate. “And now schools are wanting to put litter boxes in the schools for these children to use. How is this sanitary?”

この発言の動画は22日中にTwitterに上げられ、午前中だけで30万回視聴されたとのこと。議員は発言の数時間後に謝罪して、自分の言ったことは真実ではなかったと認めたそうです。

なんかもう、このニュースを読んでる最中、最近読んだこちらのニュースが頭に浮かんで離れませんでしたよ。

www.salon.com

投票者だけじゃなく政治家までエコーチェンバーにこもりすぎ&認知の洗練度が低すぎなんじゃないの、共和党。いや今さら驚きませんが。

*1:"furry"という語の使い方のおかしさについてはこちら参照:9 questions about furries you were too embarrassed to ask - Vox

*2:ネブラスカの学校関係者からの反応はこちら参照:School officials say 'furries' talk is ridiculous after Nebraska lawmaker raises the issue | Nebraska Examiner

ミシシッピ州元議員、LGBTQの権利支持者は銃殺すべきと発言

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2022年3月24日、米国ミシシッピ州の元下院議員ロバート・フォスター(Robert Foster)氏(共和党)が、LGBTQの権利を支持する者は銃殺すべきだとする意見をTwitterで発表しました。もうタリバンと変わんねえな、キリスト教保守。

詳細は以下。

onlysky.media

問題のツイートは現在、クリックしても「このツイートはTwitterルールに違反しています」という表示が出るだけで、読めないようになっています。OnlySkyがツイートの文面を紹介しているので、ざっと訳してみるとこんな感じです。

学齢期の子供たちを性的搾取目当てで手なずけたいとか、男が女だというふりをしたいとか思っている連中との政治的妥協点を見つけたがっている人たちがいます。さっさと審判を下すため、彼らを銃殺隊の前に並ばせる必要があると思います。

Some of y’all still want to try and find political compromise with those that want to groom our school aged children and pretend men are women, etc. I think they need to be lined up against wall before a firing squad to be sent to an early judgment.

フォスター氏は取材の申し込みをしたThe Mississippi Free Pressに対しても、ほぼ同じ主張を繰り返してみせたそうです。

言っときますが「学齢期の子供たちを性的搾取目当てで手なずけ」る云々というのはLGBTQピープルへの攻撃を正当化するためにずっとずっと(そりゃもうアニタ・ブライアントの昔から)使われてきた大嘘だし、「男が女だというふり」云々は純然たるトランスフォビアです。もはや、OnlySkyによる以下の指摘がすべてですね。

はっきり言うが、トランスの人々を支持している人たちは、子供たちを性的搾取のために手なずけることや、男性を女性用の更衣室やトイレに入らせることに賛成しているのではない。典型的な右翼の戦術だ、自分たちの階級が実際にやっている腐敗には見て見ぬふりをしておきながら、トランスの人々(や、ゲイの人々)をペドファイルと同一視するというのは。

To be clear, supporters of trans people aren’t in favor of grooming children or allowing men in women’s locker rooms and bathrooms. It’s a typical right-wing tactic to equate trans people (and gay people) with pedophiles while turning a blind eye to actual corruption within their ranks.

こんなクソ戦術のために、「銃殺されて当然の存在」として敵意を煽られてるあたしらLGBTQピープルとそのアライの立場っていったい。キリストは同性愛やトランスジェンダーよりも離婚・再婚についてよっぽどたくさん発言してる(そして非難してる)んだから、「離婚/再婚した人は銃殺刑にすべき」とでも言った方がはるかに筋が通るのに、こういう人って絶対そうは言わないんだよなー、それだとみんなが「そうだそうだ」って言ってくれないもんな。