石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

クィアなYAグラフィックノベル"The Witch Boy"(原題)がNetflixアニメ映画に

The Witch Boy

クィアなグラフィックノベル"The Witch Boy"が、Netflixでアニメ映画化されるそうです。魔法や変身があたりまえの世界を舞台にジェンダー二元論への異議申し立てをする物語で、監督は"Adam and Dog"のミンキュ・リー(Minkyu Lee)です。

詳細は以下。

www.pride.com

このお話の主人公は、13歳の少年アスター(Aster)。彼の住む世界では成長とともに女の子は魔法使いに、男の子はシェイプシフター(自分の姿を変える能力の持ち主)になることになっています。しかしアスターはまだ変身能力が現れておらず、魔法に夢中。家族はアスターが伝統通りシェイプシフターになるものと信じて疑わないのですが、そのうちある大きな危機が起こって……というところまで、Amazonの試し読みで読むことができます。

Netflixはこの作品を、ミュージカルアニメにするとのこと。なおコンセプトアートはこちらです。

米国のAmazonでこの本をサーチすると、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」のところに"The Prince and the Dressmaker"(感想)や"Princess Princess Ever After"(感想)が出てきます。このあたりのグラフィックノベルと購買層がかぶっているのなら、かなり期待できるのでは。まだ正式な公開日は発表されていないそうですが、配信開始したら見てみたいし、それまでに原作買って読むかも。

マーベル・コミックに男性キャラ同士の結婚シーン登場

Empyre (2020) #4 (of 6) (English Edition)

米マーベル・コミックの、アベンジャーズとファンタスティック・フォーのクロスオーバー作品Empyreで、ある男性同士のカップルが既に結婚していたことが明らかにされました。そう、過去にキスシーンで話題になったあのカップルです。

詳細は以下。

www.cbr.com

この描写が登場するのは、2020年8月5日発売のEmpyre #4です。(以下、ネタバレが嫌いな方はお避けになってくださいね

この巻で実は結婚していたとわかるカップルは、Hulkling(Tedey Aleman)とWiccan (William Billy Kaplan) 。つまり、以前キスシーンが問題視されてブラジルのブックフェアから本が排除されちゃったあのふたりです。詳しくは以下を。

www.ishiyuri.com

今kindle版のEmpyre #4を実際に買って読んでみたのですが、結婚の場面までの流れはこんな感じ。

  1. Carol(つまりキャプテン・マーベルですね)がWiccanに、Hulklingがとあることをしたと告げる
  2. Wiccanは「それは彼じゃない」と否定
  3. 続いてWiccanは、「ぼくは誰よりもTedey Alemanのことを知っているが、その男はぼくが結婚した相手じゃない」(要約)と主張

で、この「その男はぼくが結婚した相手じゃない(……"That is NOT the man I married.")」という台詞の部分の背景が、1ページをまるまる使った結婚式の回想シーンになってるんです。こんな風に。

ごく当たり前のこととしてさらっとこういうシーンを出してくるのって、いいなあ。早くこういう描写が世界レベルで珍しくもなんともなくなってほしいです。

リオデジャネイロ市、ゲイ・キスのあるマーベルコミックをブックフェアから排除 ブラジル

Young Avengers by Allan Heinberg & Jim Cheung: The Children's Crusade

ブラジル・リオデジャネイロのマルセロ・クリベラ(Marcelo Crivella)市長が、男性同士のキスシーンがあるという理由で、米マーベルのコミック Avengers: The Children’s Crusadeの翻訳版を同国最大のブックフェアから排除すると発表しました。

詳細は以下。

www.hollywoodreporter.com

問題のキスシーンというのはこちら。Hollywood Reporterによれば、これはWiccanとHulklingというキャラで、ふたりは恋人同士なんだそうです。そして、見ての通り別に服を脱いだりもしていません。

にもかかわらずクリベラ市長は、これを「未成年には不適切なコンテンツ」と判断し、同国最大のブックフェアRiocentro Bienal do LivroTwitterから同書を排除すると発表しました。市長は以下のツイートで、「このような本は黒いビニール袋でパックして、外側に警告表示をつけて売る必要がある」とし、排除命令を出すことで「わが市の未成年者を守る」のだと説明しています。

そして市長は、ブックフェアからこのコミックを取りのぞくため警察を派遣。

ボルソナロ大統領の相次ぐホモフォビック発言(例1例2例3)の後にくるのがこの動きかと思うとめげそうになりますね。でも、今回のニュースに関してちょっといい話がひとつだけありました。YouTuberのFelipe Neto氏がこのコミックを大量に購入し、警察がブックフェア本部にやって来る前に、そこにいた人たちに無料で配布したんだそうです。みなさん大喜び。動画は以下を。

Neto氏本人による、Twitterでの報告はこちら。ツイートの意味は「すごくぞくぞくしてる。LGBTの本を手に持って、今ここにいる検閲者たちに抗議しながらブックフェア(Bienal)を去っていく人たち。これが抵抗だ!」てなところかな?(ポルトガル語が読めないので、機械翻訳による西訳・英訳よりざっくり判断)

ちなみにNetoさん、このコミックをわざと黒いビニール袋に入れて「この本は不適切です」と書かれたラベルを貼って配ったみたいで……。やるなあ、もう。市当局のホモフォビアはむかつくけど、それにこうやって即座に抵抗する人がいること、本を片手に抗議してくれた人たちもたくさんいることを忘れないようにしようと思います。

『X-Men』コミックに初のドラァグクイーンのミュータントのスーパーヒーロー登場

Iceman (2018-) #4 (English Edition)

米マーベルの『X-Men』のコミックに、シリーズ初のドラァグクイーンのX-Men、Shadeが誕生しました。

詳細は以下。

www.advocate.com

Shadeの初登場は、2018年12月19日に発売されたコミック、『Iceman #4』。調べたらその次の号、『Iceman #5』にも出ているみたいです。Shadeの外見は以下の通り。

作者のひとり、Sina Graceのもとには、すでにたくさんのファンアートが寄せられています。

あたしはシスヘテロの人が非シスヘテロの人のことを「理解する」必要なんてひとつもなくて(だいたい、たとえヘテロ同士やゲイ同士だって、エスパーでもなければ自分以外の人間のことなんかわかりっこないでしょ)、それよりただ世の中にはシスヘテ規範とは違う価値観で生きている人間がいるという当たり前の事実に早いとこ慣れてほしいと思っています。だからこういう動きは歓迎。もっとどんどんやってほしい。

ルビー・ローズのバットウーマン、初の公式写真公開

Batwoman Vol. 2: To Drown the World

CWのドラマシリーズでバットウーマン役に抜擢されたルビー・ローズ(Ruby Rose)の、最初の公式バットウーマン写真が公開されました。

詳細は以下。

Ruby Rose Suits Up in First ‘Batwoman’ Photo – Variety

写真はこちら。

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🦇❤️First look❤️🦇 🦇 Crossover event 🦇 December 9 at 8pm ET

Ruby Roseさん(@rubyrose)がシェアした投稿 -

顔が見えないのが残念だけど、コスチュームの都合上、これは仕方ないですね。あと気になるのがアクセントのこと。ルビー・ローズがオーストラリアのアクセント以外で喋っているところを見た記憶がないんだけど、このバットウーマン/ケイト・ケインはアメリカ英語で話すのかしら。それとも「オーストラリア出身のケイト・ケイン」という力技の設定で来るのかしら……?(それで敵に巨大鮫とか出してくれたらかえってうれしい)

なおバットウーマンはDCコミックのキャラで、初登場は1956年。オリジナルバージョンのバットウーマン(別名『キャシー・ケイン』)はバットマンに恋をするキャラでしたが、2006年以降の別名「ケイト・ケイン」のバージョンはレズビアンで、ルビーが演じるのはこちらです。このルビー・ローズ主演ドラマのニュースが流れたことで、「『ポリコレ』の圧力のせいでついにバットマンまで女にされた! やはりアメコミは『ポリコレ』によって衰退させられているのだー!」などと悲憤慷慨している人もいるようだけれど、それってだいぶ見当違いだと思います。

  1. バットウーマンはバットマンの女性化キャラではない(スーパーガールがスーパーマンの女性化キャラではないのと同じ)
  2. 1956年には"political correctness"の概念すら存在しなかった
  3. アメコミは衰退したりしていない(してるんだとしたら、なぜケイト・ケインのシリーズが12年も続いてドラマ化されたり、アベンジャーズやジャスティスリーグがずっと大人気だったりしてるわけ?)(そもそも、読んでさえいれば、アメコミには面白い話も攻めてる表現もすっげえええええたくさんあって、『衰退』なんかしていないとわかるはず)。

の3点を、ここで改めて強調しておきたいと思います。

大人もがっつり励まされる百合ロマンス~漫画『Princess Princess Ever After』( Katie O’Neill著、 Oni Press)感想

Princess Princess Ever After

かわいくてエンパワメントになるラブストーリー

偶然出会ったふたりの王女、アミラとセイディが助け合い、冒険し、最後に結婚するというあらすじのグラフィックノベル。児童向け作品であるため語り口こそ平易ですが、スーパーキュートでかつクィア、フェミニズムの要素もばっちりです!

花のメタファーに注目

これは夜空に月がふたつある、つまり地球とは別の世界の物語。高い塔に閉じ込められていた王女セイディは、ある日、英雄志望の旅人アミラに助け出されます。アミラもまた他国の(元)王女で、ふたりはアミラのユニコーンにまたがって一緒に旅をすることに。さまざまな出会いと冒険を経て、ふたりは成長し、愛を深め、最終的に結婚します。王子様も何人か出てきはしますが、ご安心を。彼らは最後まで脇役です。

女性同士の恋愛描写に関してこの作品が面白いのは、アミラとセイディの間の愛が常にバラの花のメタファーで表されているところ。最初は単なるギャグかとも思ったんですよ、アミラが冒頭でセイディに呼びかける「麗しきおとめよ、お泣きめさるな。助けに参りましたぞ」という紋切型の台詞にバラの絵がペタペタくっつけられていて、セイディから冷たく「その自動的に生えてくるバラをどっかに片づけて」と言い返されているから。しかしよく見ると、このバラの花というモチーフは、その後もお話の中でふたりの心が触れ合うたびに必ず画面のどこかに登場しているんです。たとえば、塔から落ちそうになったアミラをセイディがとっさに助ける場面とか、セイディからあることを言われてアミラが頬を染める場面とか、自信のないセイディをアミラが励ます場面とか。つぼみから花びら飛び交う満開の花園まで、表現の幅も多彩です。

子供向けの作品だということもあってか、ベタな口説き文句や愛のささやきなどはないし、実は最後までキスシーンすらないんですよ、このグラフィックノベル。でも、これらのお花の描かれ方を追っていくだけで、ふたりのロマンスの盛り上がりは手に取るようにわかります。かわいらしい上に、なかなか気の利いたやりかただと思いました。あ、ちなみに、日本の一部の百合作品にありがちな「女の子同士なのにうんちゃらかんちゃら」みたいなホモフォビックな台詞もひとつもないので、そういうのが苦手な方にも安心です。

フェミニズムの要素もばっちり

ふたりの王女を苦しめていたものは、この現実世界の読者たちにとってもめちゃくちゃ身近なものばかりです。アミラにとってのそれは、親による「国や家族の役に立つには好きでもない男と結婚するしかないと教え込み、人生の選択肢を奪う」という行為でした。そして、セイディにとってのそれは、姉による「おまえは愚かだ、弱い、太っているなどと言い聞かせて自尊心を削り、力を奪う」という策略。女ならだれでも受けまくっている圧力ですよね、これ。だからこそ、アミラが自分の居場所は自分で作ると決めて家を飛び出す場面や、セイディがクライマックスで泣きながら姉に言い返すことばが余計に心に響きます。ものすごくエンパワメントになるわ、これ。

アミラとセイディの結婚が、「悪い奴を殺して王女を助けた若者が、助けたご褒美として王女をめとる」というおとぎ話の定番パターンに全然あてはまってないところもいいと思いました。アミラは英雄志望だけれど誰も殺してないし(一つ目巨人やケルベロスのエピソードが特によかった)、セイディーだって、無力な助けられ係でも、ましてや意志なきトロフィーでもないんです。英雄であるために覇権的な/有害なマスキュリニティを発揮する必要などないということを、この物語は描いているのだと思います。

その他

  • アミラが褐色の肌、セイディが白い肌を持っていることと、ふたりの名前がそれぞれ「王女」という意味を持っている(アミラはアラビア語、セイディはヘブライ語に由来)ところが興味深かったです。これはおそらく、人種や国に限定されない話にしたいという狙いあってのことではないかと。
  • 小さい子が読むお話(Grades 2-5)なので、難しい単語が全然出てこなくて、英語のノンネイティブスピーカーにとっても読みやすいと思います。言い回しを子供向けにするため"f**k"(ちくしょう)が"fudge"になっていたり、"kick-ass"(すっげーカッコいい)が"kick-butt"と言い換えてあったりするのもまた一興。

まとめ

百合が好きな人のみならず、世のセクシズムに悲しい思いやくやしい思いをさせられているすべての人におすすめできる良作だと思います。伊達にアメリカ図書館協会(ALA)の2017年度レインボー・ブック・リストのトップ10入りしてないわ。邦訳も出すべきだわ。

Princess Princess Ever After

Princess Princess Ever After

コミック『X-Men: Gold』でアイスマンとパイロがセックス

X-Men Gold (2017-) #31

マーベルのコミック『X-Men: Gold』の第31号(2018年7月4日)で、アイスマンとパイロが一夜の情事を楽しむという展開が描かれたそうです。

詳細は以下。

Iceman and Pyro have sex three times in new 'X-Men Gold' - Attitude.co.uk

この場面のページはこちら。

『X-Men』はマーベル・コミック刊行の人気シリーズで、主要キャラクターのアイスマンことボビー・ドレイクは、空気中の水分を氷に変える力を持つミュータントのスーパーヒーローです。2015年4月、『All-New X-Men』の中でそのアイスマンが実はゲイだったということが明かされ、原作者のスタン・リーと、映画版でアイスマンを演じているショーン・アシュモアはこれを歓迎するコメントを出しています

上記のページは、そのアイスマン/ボビーとパイロ/サイモン・ラスカーがある人とある人の結婚式に出かけた日の翌朝という設定なようです。台詞がすごい。ざっくり訳すとこんな感じ。

サイモン「朝だよ、シャワーはご自由に。お相手が欲しければまたベッドに戻ってあげてもいいけど」

ボビー「ゆうべのことは一回限りだってことで意見が一致したんじゃなかったっけ」

サイモン「ぼくの計算が正しければ、実際には三回したけどね」

つまりワンナイトスタンドで三発お楽しみだったと。ゲイセックスを全然特殊なこと扱いせず、こういう風にごくサラッと話に織り込んでくるっていうのはいいね。拍手。

ジェンダーフルイドな王子のクィアなラブロマンス~漫画『The Prince and the Dressmaker』(Jen Wang著、First Second)感想

The Prince and the Dressmaker

ジェンダー観が新しいラブロマンス

ドレスが着たい王子セバスチャンと、極秘で彼を助けるお針子フランシスのロマンスを描くコミック。王子が日によって性自認が変動するジェンダーフルイドな人であるところが新しいし、恋愛要素もクィアでよかったです。絵柄もすごくキュート。

性の流動性と変身の物語

「ドレスが着たい男の子」というと、すわ男性ボディーで「心が女」なキャラクターの話かと誤解されそうですが、違うんです。それがよくわかるのが、セバスチャンがフランシスに吐露するこの台詞(p. 44)。

「鏡に映る自分を見て、『これがぼくだ、セバスチャン王子だ! 男物の服を着て、父さんに似てる』と思う日もある。それが全然しっくりこない日もある。そういう日には、こんな気がするんだ。自分は実は……王女なんだ、って」

Some day I look at myself in the mirror and think, "That's me, Prince Sebastian! I wear boy clothes and look like my father. The other day it doesn't feel right at all. Those days I feel like I'm actually......a princess."

セバスチャンは自分の男性性も、王子であることも一度も否定していません。彼はただ、日によって王子でも王女でもありうるという流動的なアイデンティティーを持っているだけ。つまり、ジェンダーフルイド(gender fluid)であるだけ。これ、すごく画期的な設定だと思うんですよ。ジェンダーフルイドな若者は増えているのに、フィクションに登場する性的少数者のティーンはまだまだゲイや、男女どちらか一方の性自認を持ったトランスジェンダーが主体ですから。

父のように武張った王にはなれそうもないと悩むセバスチャンは、やがてフランシス作の女物のドレスで「レイディ・クリスタリア」なる謎の美女として社交界デビューし、ファッションアイコンになっていきます。でも、ここでもやはり、それがセバスチャンの「真の姿」だとか、セバスチャンには王より社交界の華が向いているのだとかいうような描き方はされません。クリスタリアはあくまでセバスチャンの「よりビッグでアメイジングな」(p. 74)姿であり、一国を率いる力量すらある「女神バージョンの自分自身」(p. 74)なんです。つまりセバスチャンにとってのフェミニンなジェンダー表現(gender expression)とは、セーラームーンにとっての変身アイテムのようなもので、これはトランスジェンダーというよりトランスフォーメーションの物語であるわけ。

そうは言ってもセバスチャンの苦悩は深く、ショッキングな展開も出てきたりはしますが、その中でも「自由なジェンダー表現は人をよりすばらしくする」というメッセージが最後まで揺らがないところがとてもいいと思いました。特に後半で意外な人物が意外なジェンダー表現で場をさらうあたりは必見。別にジェンダーフルイドなひとでなくても、ボディーの性別と性自認とジェンダー表現を「男」「女」のどちらか一択で揃えて固定する必要はないのだ、むしろ固定しないことで生まれる強さや美しさがあるのだということを伝える名シーンだと思います。

ロマンス部分もクィア

フランシスがセバスチャンへの恋心を自覚しはじめる瞬間が、彼がクリスタリアの姿をとっている場面だというところが面白いと思いました。別にフランシスがレズビアンで、女性としてのクリスタリアに恋をしたとかいう文脈では全然ないんですよ。そもそもフランシスの性的指向についての言及は一度もないし、これはジェンダー云々以前にただその人がその人であるから恋をしたという場面なのだと思います。このあたりの表現にも、ミレニアル世代よりさらに新しい、ジェネレーションZの時代の風を感じました。

力強くキュートな絵柄

描線がとても力強く、かつ色っぽく(巻末のメイキングのページによると、デジタル作画ではなくコリンスキーセーブル筆を使って描いているんだそうです)、キャラの表情も豊かです。フランシスとセバスチャンが互いにどんどん惹かれあっていくくだりなど、双方の表情が切ないわ可愛らしいわで大変なことになってます。コマ割りや画面構成にはどこか日本の漫画の文法も入っているような雰囲気があり、アメコミ慣れしていない日本の読者にも読みやすそう。

残念だったところ

唯一残念だったのは、セバスチャンにくらべてフランシスの内面の掘り下げが少ないところ。とってもいい子で勤勉で斬新なデザインセンスを持っていることはわかるんだけど、特に欠点や弱点がなく、来歴すらよくわからないところが物足りない感じでした。ドラえもんにだって「ネズミが大嫌い」「ドラ焼きが好き」のような特徴があるんだから、フランシスにももう少し、セバスチャンを助ける特殊能力(ドレス作り)以外のところでの特徴を作ってやってほしかったです。

まとめ

ひとことでいうと「ジェンダー・アイデンティティーやジェンダー表現の自由さはその人の大きな力となる」というテーマのコミックであり、性別二元論が過去の遺物となりつつある今のカルチャーを色濃く反映する作品だと思いました。フランシスのキャラ設定はもう少しふくらませる余地があるように思うけれど、総じてかわいらしくダイナミックなラブロマンスとして楽しめる一冊だと思います。生まれたときに割り振られた性別と、性自認と、好きになる相手のジェンダーと、自分のやりたいジェンダー表現のうちのどこかが不一致だとか、変だとか思っている若い子にこそ読んでほしいなあ。

The Prince and the Dressmaker

The Prince and the Dressmaker

バットウーマンが『ARROW/アロー』クロスオーバーに登場

Batwoman (2011-2015) (Collections) (6 Book Series)

『ARROW/アロー』の俳優スティ-ヴン・アメル(Stephen Amell)が2018年5月17日、CWの先行プレゼンテーションで、秋にバットウーマンとのクロスオーバー・エピソードがあることを明かしました。ということは、バットウーマンが初めて実写化されるわけ。

詳細は以下。

Next CW superhero crossover to introduce Batwoman | EW.com

以下、アメルの発言をちょっと訳してみます。

「この秋にCWでまたクロスオーバー・イベントがあって、新しいキャラクタをお見せすることになります」とアメルは言った。「これがまったくの初登場となる、バットウーマンと一緒に戦うんです。最高です。クロスオーバーは12月放映予定です。今すぐここを出て、撮影を始めなくては」

“We’re incredibly excited to announce that we’ll be doing another crossover event this fall on the CW, and we’ll be introducing a new character,” Amell said. “For the very first time appearing, we’ll be fighting alongside Batwoman, which is terrific. The crossover is going to make it to air in December. I need to leave right now and start filming it.”

バットウーマンは1956年にDetective Comics #233で初めて描かれたキャラクタ。現代のバットウーマン(ケイト・ケイン)は、赤毛のユダヤ系のオープンリー・レズビアンという設定になっています。コミック版のケイト・ケインはすごくかっこいいので、彼女がドラマにも登場するというのはありがたい限り。DC原作ドラマにはこれまでにもサラ・ランスとエイヴァ・シャープ(『レジェンド・オブ・トゥモロー』)、ナイッサ・アル・グール(『アロー』)、アレックス・ダンバース(『スーパーガール』)などクィアな女性キャラが数多く登場していますが、クィアなスーパーヒーローは何人いても多すぎることはないと思います。

Hollywood Reporterによると、このバットウーマンの細かい設定や女優などの情報はまだ公表されていないとのことです。続報を楽しみに待ちたいと思います。

これからスクリーンに登場するクィアなスーパーヒーロー9人(NewNowNext調べ)

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NewNowNextによる、コミックを原作とする近日公開のTVシリーズや映画で、クィアな(少なくともコミックではそう描かれている)スーパーヒーローが出てくるものをまとめた記事が面白いです。

詳細は以下。

9 LGBT Superheroes Coming To A Screen Near You | NewNowNext

上記リンク先の全体的な印象としては、映画よりTV、そしてTVより原作コミックの方がLGBTキャラの描写に積極的っぽい感じですね。理由はたぶん、Entertainment Weeklyのこちらの指摘通り、ビッグバジェットになればなるほどリスクが冒しにくくなるからだと思います。とりあえずコミックから順次チェックしていくつもりですが、よく知らないキャラ・作品も少なからずあったので、自分で調べた情報を付け加えて以下にメモとしてまとめてみました。

1. キャロライナ・ディーン("Runaways")

"Runaways"は、同名のマーベルコミックを原作としたHuluオリジナルドラマ。米国では2017年11月21日から配信開始されるとのこと。自分たちの両親が街を牛耳るスーパーヴィランだと知った6人のティーンエイジャーの奮闘を描くお話で、そのうちのひとり、キャロライナ(バージニア・ガードナー)がレズビアン。しかもエイリアン。

原作コミックはこんなです。

Runaways: The Complete Collection Volume 1

Runaways: The Complete Collection Volume 1

2. ザ・レイ(『ARROW/アロー』)

ザ・レイはDCコミックのゲイのヒーロー。CWのドラマ『ARROW/アロー』の2017年11月放映のクロスオーバー回で、オープンリー・ゲイの俳優ラッセル・トーヴィーがこのザ・レイを演じるのだそうです。

3. コーグ(『マイティ・ソー バトルロイヤル』)

『マイティ・ソー バトルロイヤル』は、マーベル・スタジオ製作の映画『マイティ・ソー』シリーズ3作目。コーグ(タイカ・ワイティティ)は岩のようなごつごつした身体を持つエイリアンで、ゲイだということがIncredible Hulk #619であきらかにされているとのこと。そして、実はマーベルが映画にLGBTキャラを登場させるのは、これが初。コミックやTVドラマはともかく、これまで映画にLGBTキャラを出したことはなかった(少なくとも、キャラのクィアネスを描写することはなかった)んです、マーベルは。

『マイティ・ソー バトルロイヤル』は、2017年11月3日に日米同時公開予定です。トレイラーはこちら。


4. ワンダーウーマン(『ジャスティス・リーグ』)

映画版『ワンダーウーマン』(2017)ではダイアナ/ワンダーウーマン(ガル・ガドット)のセクシュアリティについて直接的な言及はありませんでした。しかし、Greg Ruckaのコミック版『ワンダーウーマン』(2016)では、ダイアナには女性の恋人がいたことが示されています。そして実は映画にも、女性しかいない島出身のダイアナが、スティーブ・トレバーに「肉体の快楽」なら知っていると説明している箇所があったりします。この場面、日本ではあまり話題になっていない気がするんですが、日本語字幕/吹き替えではどうなってるんでしょうかね(自分は北米版ブルーレイでしか見ていないので、日本語訳がどうなっているのかわからないんです)。ともかく、そんなわけで、ワンダーウーマンは少なくともヘテロではありません。

『ジャスティス・リーグ』は、2017年11月(日本では11月23日)公開予定です。トレイラーはこちら。


5. トレイシー・サーティーン("Young Justice: Outsiders")

"Young Justice: Outsiders"は、TVアニメ"Young Justice"シリーズの第3シーズンで、2018年からストリーミングが開始されます。トレイシーはスーパーナチュラルなパワーを持った女の子で、これまでDCコミックスのさまざまな作品に登場しており、Phil JimenezのコミックSuperwomanでは女性との恋愛が描かれているとのこと。

こちらのキャラ紹介動画がわかりやすいかも。


6. サンダー("Black Lightning")

"Black Lightning"はCWのドラマで、原作はDCコミックス。主人公ブラック・ライトニングの娘、サンダー(本名アニッサ・ピアース)は女性を愛する女性キャラで、ドラマではナフェッサ・ウィリアムズがこの役を演じるのだそうです。ただし、このドラマでアニッサがスーパーヒーローとして、または同性愛者として描かれるかどうかはまだわかっていない模様。

Entertainment Weeklyによれば、コミックBlack Panther #1に、ふたりのレズビアンが抑圧的なシステムに対して反逆を起こすというストーリーが描かれているとのこと。読まなくちゃ。

Black Panther: A Nation Under Our Feet Vol. 1 (Black Panther (2016-))

Black Panther: A Nation Under Our Feet Vol. 1 (Black Panther (2016-))

ドラマ版"Black Lightning"は米国で2018年放送開始予定です。


7. デブリー("New Warriors")

"New Warriors"はマーベル原作のTVシリーズで、「アベンジャーズほどすばらしくはない」(IMDbより)パワーを持つ6人の若者を主人公とするアクションコメディ。放送は2018年から。ケイト・コウマー演じるデブリーというキャラが、カミングアウトしているレズビアンで、かつ念動力のあるスーパーヒーローだとのこと。

8. アヨー*1(『ブラックパンサー』)

『ブラックパンサー』はマーベル映画『シビル・ウォーキャプテン・アメリカ』のブラックパンサーが主人公の新作映画。フローレンス・カスンバ演じるところのアヨーはブラックパンサーのボディガードのひとりで、コミックBlack Panther: World of Wakandaで女性との恋愛関係が描かれていたキャラ。とは言え、マーベルはコミック版のそのストーリーラインは映画には使わなかったと主張しているらしいです。

本作品の公開日は、米国では2018年2月16日、日本では同3月1日。トレイラーはこちら。


9. シャッタースター("Deadpool 2")

シャッタースターは、マーベルコミックX-Forceで同性との恋愛関係が描かれたキャラ。R指定のマーベル映画『デッドプール』の続編"Deadpool 2"に登場予定だとのことですが、まだキャストは発表されていないそうです。どんなキャラかはこちらの動画をどうぞ。

"Deadpool 2"は、米国で2018年6月1日公開予定。トレイラーはこちら。

*1:綴りは"Ayo"。英語圏だと『エイヨー』と読む人も『アヨー』と読む人も両方いるみたい。日本のWikipediaでは『アヨー』になってます。

ハーレイ・クインとポイズン・アイビーが公式設定でカップルに

DC Comics Poster Harley Quinn Bombshell (61cm x 91,5cm)

米DCコミックス『バットマン』シリーズの女性ヴィラン、ハーレイ・クインポイズン・アイビーが、公式設定でカップルになるそうです。

詳細は以下。

EXCLUSIVE: Harley Quinn and Poison Ivy Now Officially a Couple | Advocate.com

ハーレイ・クインとポイズン・アイビーは昨年、DC Comics: Bombshellsという作品の#42でキスしており、2017年1月20日に電子版が発売される#79では、ふたりの間の愛が話の鍵になるとのこと。絵柄はこんなです。

いいねえ。どうせならこういう話を映画化してくれないもんかしら。最近のアメコミではゲイやバイセクシュアルのキャラは珍しくなくなってきていますが、そのことを知らずにひとりで悩んでいるティーンもまだまだいるみたいですしね。

三角関係に(ついに)進展が!!!!(※追記あり)―"Princeless: Raven the Pirate Princess Book 3: Two Boys, Five Girls, and Three Love Stories" (Whitley, J., Higgins, R. & Brandt, T. Action Lab Entertainment) 感想

Princeless- Raven: The Pirate Princess Vol. 3: Two Boys, Five Girls, and Three Love Stories

とうとうラブストーリーが焦点に

クィアな海賊娘レイヴンの冒険を描くグラフィックノベル、第3巻。女同士の三角関係に大きな進展がみられる一方、続刊への引っ張り方もお見事。差別や不平等への反発も相変わらずパワフルで、新キャラ・レイラニの決め台詞が特に痛快です。

キスはあるわ告白(?)はあるわの大盤振る舞い

3巻のストーリーは、2巻で瀕死の重傷を負った航海士ジメナを救うため、レイヴンが癒しの島の聖母レイラニに助力をあおぐというもの。1巻からさりげなくほのめかされていたレイヴンとジメナとサンシャインの三角関係が、ここにきてついに表舞台に飛び出します。あの人からあの人への唐突なキスに度肝を抜かれたと思ったら、次の瞬間にはさらに予想外の台詞が出てくるし、レイヴンはレイヴンでレイラニ相手の流血のバトル中に思いっきり自分の想いを叫び始めるしで、あたかも盆と正月がいっぺんに来たかのごとき(いや、この世界には盆も正月もないとは思いますが)百合フェスティバル状態です。それでいて、いわゆる「はしごをかけておいて外す」テクニックが手堅く使われているところも心憎く、特に最終ページの最後のコマの台詞には大いにウケました。レイヴンにはちょっぴり気の毒だけど、続き物はやっぱりこうじゃなくっちゃね。

差別へのカウンターあれこれ

このシリーズに通底する、差別や不平等への怒りは今回も健在。「女は地図が読めない」などの偏見を笑い飛ばす部分でニヤリとさせてくれる上に、海賊嫌いのレイラニのとある台詞が最高でした。長い髪に花をつけた、一見おとなしやかなプリンセス風の聖母レイラニは、レイヴンを掌底一発で吹き飛ばしてから、毅然とした表情でこう言い放つんです。

「ドレスを着て笑っていてフェミニンなものが好きだからといって、わたしが弱いだなんて思わないで」

"Do not assume that because I wear a dress and lahgh and like things that are feminine that I am weak."

この! コマが! かっこよくてかっこよくて!

そして実際、レイラニはめちゃくちゃ強いんです。彼女が使う技は、おそらくハワイの伝統格闘技(Kapu Kuialua)。そこらの男性兵士より格段に強いはずのレイヴンでさえ、レイラニとの勝負ではいいように叩きのめされ、鼻の骨を比喩ではなく物理的にへし折られてしまいます。女性性と強さは両立しうるということをアクションを通して伝えてくれるキャラ、それがレイラニです。

この場面を読んでいて、前世紀に日本で放映されたスポーツアニメで、女性主人公を強くするために鬼コーチが「(主人公には)女を超えてもらう」と言う場面を見て、子供心に釈然としなかったのを思い出しました。なぜ「女で、かつ強い」じゃいかんのかと思ったんですよね、子供なりに。21世紀の今、この作品に「それでいいに決まってる!」と太鼓判を押してもらえたようで、なんだかほっとしました。

他によかったのは、サンシャインの両親のなれそめのエピソードや、「犯罪者」についてレイラニの衛兵ティファニーが同僚相手に言う台詞など。どちらも、異質な相手との共存という今日的なテーマを子供にもわかりやすいかたちで描いていると思いました。米国の映画やドラマは社会に実際にある/あった問題をえぐるものが多いと思うんだけど、コミックもまたそうなのかも。

その他

  • サンシャインとケイティの会話で、どこからどう見てもダイキ―なケイティのセクシュアリティに意外な側面があることが明かされます。これはこれで今後の描写が楽しみ。一方、ここでのサンシャインの受け答えも面白いです。キャラの性的指向の表現って、いちいち「ゲイ」とか「バイセクシュアル」とかの単語を使わなくたって全然やれるもんなんだなあ。
  • この巻のサブタイトル"Two Boys, Five Girls, and Three Love"から、ひょっとしたらヘテロ恋愛の要素も混じってくるのかと思っていたのですが、実際にはこの巻(kindle版)に登場する異性愛はサンシャインの父母の過去話だけでした。話の中心は、あくまでガール・オン・ガールの関係にあります。

まとめ

現時点でもっともラブストーリーの要素が強い巻だと思います。それでいて恋愛だけに終わらず、疎外された者の痛みや怒りに寄り添い続けるシナリオが、とてもよかったです。なお、Action Lab Entertainmentの公式Tumblrによると、レイヴンのシリーズはアートチームの変更に伴う小休止の後、"Raven: Love and Revenge"(『レイヴン:愛と復讐』)という新章に突入する予定だとのこと。ついにあのクソ兄貴たちへの復讐が本格的に始まりそうで、ガールズたちの恋の行方ともども超楽しみです。

追記(2017年1月20日)

上記感想はkindle版のものです。後日入手した紙の本と見比べて気づいたのですが、kindle版ではなぜか、紙の本の冒頭に収録されている第7話がカットされています。のっけから三角関係のうちのとある組み合わせに焦点が当たっている百合百合しい話ですし、これが入っていた方が断然面白いと思うので、どちらか一方だけ買うなら紙の本の方がおすすめ。

Princeless- Raven: The Pirate Princess Vol. 3: Two Boys, Five Girls, and Three Love Stories

Princeless- Raven: The Pirate Princess Vol. 3: Two Boys, Five Girls, and Three Love Stories

シスターフッドとアクション満載の第2巻―"Princeless: Raven the Pirate Princess Book 2: Free Women" (Whitley, J., Higgins, R. & Brandt, T. Action Lab Entertainment) 感想

Princeless Raven the Pirate Princess 2: Free Women (Princeless: Raven the Pirate Princess)

シスターフッドとアクション満載の2巻

クィアな海賊娘レイヴンと個性豊かな女乗組員たちがついに海に出て、最初の試練に直面します。アクションも笑いも百合なロマンスも好調で、相変わらず男社会への皮肉が強烈。女を励ますと称して脅してばかりの日本社会に今必要なのは、こういう物語なのでは。

「侮辱され、嘲笑されてやる気が出るものはいるか?」

1巻の感想でも触れた大柄な船乗りのケイティが、今回も大変いい役回りを演じてましてね。船上で皆に剣術の稽古をつけることになったレイヴンが、「よーし、船の下水溝のみじめなドブネズミども! 死なねえために学ぶ時間だぜ!」と叫ぶと、ケイティがそれを止め、「それは侮辱です。本当に必要なことなんですか?」と問いかけるんです。

レイヴンに悪意はなく、ただこれまでの経験から、海賊船の船長はクルーにそういう口をきくものだと思い込んでいただけ。ケイティはさらに一歩踏み込んで、「わたしたちはもっといいやり方ができるのでは」と進言します。そこでレイヴンは改めてみんなにこう聞くわけです。

挙手を頼む、みんな。この中で侮辱され、嘲笑されてやる気が出るものはいるか?

Show of hands, ladies. Who here is motivated by being insulted and derided?

ここを読んでいて、最近日本で女性からの批判が多数巻き起こった以下のCMのことが頭に浮かんでなりませんでした。

  • ルミネのCM。女性が男性上司と思われる人物から容姿をけなされ、他のかわいい女性社員とは「需要」が違うと言われるところを描いたのち、「変わりたい? 変わらなきゃ!」というナレーションとテロップを流すというもの。*1*2*3
  • 資生堂インテグレートのCM(計2種)。*4*5
    • 「生き方が、これからの顔になる編」: 25歳の誕生日を迎えた女性が女友達から「めでたくない」「今日からあんたは女の子じゃない」「もうチヤホヤされないしほめてもくれない」などと矢継ぎ早に言われて焦り出す様子が映し出されたのち、「生き方が、これからの顔になる。#いい女なろう」というテロップが流れる。
    • 「がんばってるを顔に出さない編」: 職場のデスクで忙しそうにサンドイッチを食べている女性が、男性上司と思われる人物から「(頑張りが)顔に出ているうちはプロじゃない」と言われ、その後「『がんばってる』を顔に出さない。#いい女なろう」というテロップが流れる。
  • 国際協力NGOジョイセフが「ILADY.キャンペーン」で制作した、「新・女子力テスト」なる動画*6*7。「日本の女子たちは本当に女子力が高いのか?」と銘打って、複数の女性にピンク色が好きかどうか、チワワが好きかどうかなどと質問したのち、「子宮はリンゴの大きさだ」「自分でコンドームを買ったことがある」「正しい避妊法を3つ答えられる」などの項目で正解(とされているもの)を出せないと罰として白い粉をぶっかけるという内容。

ルミネ資生堂もこれらのCMで女性を「応援」したかったと主張しており、ジョイセフに至っては、この動画が「女性たちのエンパワーメントの一歩となる新たなアクションを生んでいる」とまで考えているようです。しかしね。ここで話はレイヴンのさっきの台詞に戻るのですが、誰かから侮辱され、嘲笑されて(そして時には謎の白い粉までぶっかけられて)やる気が出る人っているの? ゼロではないにしても、決して多くはないはずでは。それに、自尊心を低下させ、不安に陥らせることで相手の行動をコントロールしようとするのは、応援でもエンパワメントでもありません。むしろそれは、DV加害者が被害者に対しておこなう操作("manipulation")や、軍隊やカルト教団やいわゆるブラック企業などで使われている洗脳テクニックと同じたぐいのものであるはず。こと女性相手に何かを呼び掛けようとすると、どうしてこうもパターナリスティックかつ支配欲むき出しの表現ばかりが出てくるんでしょうかね、日本社会は。いや、おそらく、決して日本だけの現象でもないのでしょうが。

ちなみに挙手で決を採った結果、レイヴンの船では、「戦闘時など迷いがあったら命にかかわるような状況ではレイヴンの言うことが絶対だが、それ以外の決定は投票でなされる」というルールが確立されます。いいなあ、あたしゃこの船に乗って彼女たちと旅をしたいよ。採決の後のレイヴンのスピーチも、またいいのよ。

長い間、男は女同士を対立させてきた。あたしたち女はあまりに何度も、疑問も持たずにそのことを受け入れてきた。だがこの船の上では、そして陸でも、あたしたちは全員姉妹だ。今この瞬間からみんな、互いを姉妹として扱う。

There is a long history of men pitting woman against each other and too often we accept that without question. On this ship and off, we are all sisters and from this moment on we treat each other as such.

女性に必要なのは、エンパワメントのふりをした脅しではなく、こういうシスターフッドだと思うわ。そしてこれこそが、ケイティの言う「もっといいやり方」だと思うわ。

多彩でリアルな乗組員たち

1巻ではまだ名前が出てこなかった乗組員たちが、この2巻ではもう少し詳しく書き込まれています。ヒジャブ(的なもの)をかぶっているキャラや、耳が聞こえないキャラもあたりまえにいて、サブタイトルの「自由な女(Free Women)」城での決戦でもあたりまえに活躍しているところがよかった。特に後者の「メカ好きなベイビーブッチ」っぽさがすごくキュートで、お気に入りのキャラのひとりになりました。

この城の名前がダブルミーニングになっているところにも注目。大昔にこの城がつくられた背景と、そこで現在レイヴンたちが戦いに巻き込まれる羽目になった理由を考えると、これ、「女性を解放せよ」という命令文でもあると思うんです。そこで大活躍する女海賊たちが決して画一的な存在として描かれていないところに、なんだかほっとしました。「白人でシスヘテロで健常者で特定の宗教の女性が、白人でシスヘテロで(略)だけを解放する物語」みたいな過去の遺物は、もういりませんからね。

ロマンスの行方について

1巻では控えめな描写ながら「ハーフエルフのサンシャインがレイヴンの現カノ(候補?)だとしたら、地図作成者のジメラはレイヴンの元カノ(または、片思いの相手だった?)」的なニュアンスがあったのですが、今回もさりげなくその路線が維持されています。レイヴンに抱き着いて胸元にすりすりするサンシャインの姿はまるでセシリー・ストロング(またはレスリー・ジョーンズ)に甘えるケイト・マッキノンのようだし、そこに割って入るジメラに向ける表情もやはりどことなく「現カノvs元カノ」風。一方、かつて自分で描いたレイヴンの肖像画をひとり見つめるジメラの姿を見ると、レイヴンとジメラでカップリングが成立する可能性も否定しきれず、今後の展開がますます気になるところ。12月発売予定の3巻のサブタイトルが「2人の少年、5人の少女、そして3つのラブストーリー("Two Boys, Five Girls, and Three Love Stories")」なので、そこで何か大きな動きがあるかも?

まとめ

今回もパワフルでおもしろかった……。サフィックなサブテキストにも満足です。一部箇所でテーマをあまりに直球で打ち出し過ぎているという批判は成り立つかもしれませんが、ドナルド・トランプの影響で先週引き起こされたヘイトクライムの約70%が男性から女性へのいやがらせや暴力だったらしいと言われていることからして、これぐらいあからさまにやってもまだまだ足りないぐらいではないかとあたしは思います。脅しや支配ではない「もっといいやり方」をつかみとるためには、個の尊重とシスターフッドは必要不可欠なんです。

Princeless Raven the Pirate Princess 2: Free Women (Princeless: Raven the Pirate Princess)

Princeless Raven the Pirate Princess 2: Free Women (Princeless: Raven the Pirate Princess)

クィアな海賊娘の痛快グラフィックノベル―"Princeless: Raven The Pirate Princess Book 1: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew" (Whitley, J., Higgins, R. & Brandt, T. Action Lab Entertainment)感想

Raven Pirate Princess: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew #TPB 1 (Princeless Raven Pirate Princess Tp)

これは読まなきゃもったいない!

先日紹介したグラフィックノベル"Princeless: Raven The Pirate Princess"があまりに面白いので、もう少し詳しい感想をまとめてみました。女子好き女子の冒険活劇に目がない人なら必読の一冊なのよ、これ!!

あらすじと主な見どころ

本書は、2016年7月から毎月1話ずつ発売されている"Princeless: Raven The Pirate Princess"(直訳すると『王子なし: 海賊王女レイヴン』)シリーズの第1話から第4までを収録した単行本。ちょうど日本の連載漫画における単行本のようなものだと思ってもらえれば、だいたい合ってます。まずはあらすじと主な見どころについて、以下に先日のエントリから引用しておきます。

17歳の非白人クィア少女「レイヴン(別名ブラック・アロー)」が、乗組員が全員女性の海賊船を率いて冒険に乗り出すコミック。物語は、海賊王だった父の後を継ぐはずだったレイヴンが、悪辣な兄弟たちによってすべてを奪われ、「ここで王子様を待ってろ」と塔に閉じ込められ、そこから脱出して船を手に入れるところから始まります。女の子同士のキスシーンもありますが、ただの甘ったるいガール・ミーツ・ガールものではなく、常にスピード感ある展開とクールなアクションが楽しめるところがポイント。格闘シーンときたらまるでよくできた映画を観ているようだし、ミソジニストの男性キャラ連中を皮肉る部分も最高だしで、これを読める小学生はつくづく幸せだと思います。

その他の見どころ1: 魅力的すぎるキャラたち

独力で道を切り開く主人公レイヴンももちろんかっこいいのですが、ひとりひとり彼女の仲間になっていく女の子たちもみなとんでもなく魅力的です。人種も体型もセクシュアリティもさまざまな彼女たちがそれぞれの見せ場で大活躍するところは、子供から大人まであらゆる読者(特に、女性の)が楽しめるものだと思います。

あたしのお気に入りは、踊り子のサンシャインが悪漢一味に絡まれた後、それまで彼女と衝突していたレイヴンが助けに入り、ふたりで大暴れする場面。敵にぐるりと囲まれたふたりが背中合わせで(※以下、日本語訳はすべてみやきちによります)、

レイヴン「あんたとあたしの間のけりはついてないからね。こいつらを片付けたら、ちっと話があるんだ」

サンシャイン「そうね、ブラック・アロー……この場を切り抜けさせてくれたら、なんでも好きなことを言えばいいわ」

……なんて会話を不敵な表情で繰り広げるあたり。どんなバディムービーかと思いましたよもう。冗談抜きでこれ、どっかで実写映画化してくれないかしら。ディズニー/ピクサーあたりによるアニメ化も歓迎。

他によかったのは、大柄で超ダイキ―な女海賊ケイティが酒場で男から「デブ」呼ばわりされ、「あたしはあたしのサイズが気に入ってるんだ」と言って圧倒的パワーで反撃するところ。それから、本の虫で「爆発物の専門家」の少女ジェイラが、過保護な父親を振り切って旅に出るときこんなことを叫ぶ場面も。

父さんが何を考えてるかはわかってる。あたしが本を読むのは時間の無駄! あたしがやってる科学はお遊び! あたしがしゃべるときはいつだってしゃべりすぎ!

ジェイラと同じようなことを言われて学びを阻害されてきた世界中の女たちが血の涙を流しながらうんうんとうなずくところが目に見えるようです。つまるところ、この作品に登場する女性たちの魅力の根源は、こういうところにあるのでは。現実世界で女性が押し付けられているさまざまな困難(女だからと相続権を奪われる・舐められて暴力をふるわれる・体型をジャッジされる・学ぶことを妨害される等々)に、全力でNOをつきつけてくれるんです、彼女たちは。

その他の見どころ2: さりげないセクシュアリティ描写

レイヴンがクィアだとはっきりわかる場面のさりげなさに拍手。彼女の昔なじみの男性キャラ、クッキーが、レイヴンが作れる料理の少なさに驚いたとき、彼女はこんな会話をするんです。

クッキー「レイヴン、男をつかまえたかったらもう少しレシピを習えよ」

レイヴン「ああ、あたしにゃあんまり関係ないんで」

これだけ。このシンプルさが、かえってとてもうれしく感じられました。「今現在あからさまに同性パートナーがいたり、同性に恋をしたりしている描写があるキャラだけが非ヘテロで、そうでないキャラは自動的に全員ヘテロ」みたいな雑な世界観には、もううんざりですから。

ちなみに本書ではロマンスの要素も筆加減が絶妙で、けばけばしい演出は皆無。真実味があり、かつ今後の予測がつかない、心憎い描き方でした。

その他の見どころ3: ケイティのスピーチ

レイヴンの船の乗組員を集めるため、ケイティがギルドの女性たち相手にしたためるスピーチが最高すぎます。"I'm tired of..."で始まるセンテンスが3回繰り返される部分では、噴き出しつつもめちゃくちゃ共感してしまいました。その場にいたらあたし、諸手を上げて海賊になったと思うわ。

まとめ

女の子が冒険するお話でワクワクしたいおちびさんから、世の家父長制や女性蔑視にうんざりしているおとなまで、広くおすすめできる快作。これまでグラフィックノベルはあまり読んだことがなかったのですが、こんな爽快なものが読めるジャンルをまるまる見逃していたことをたいへん口惜しく思います。この"Princeless: Raven The Pirate Princess"シリーズは2016年11月現在で2巻(Book 2)まで刊行されており、12月には3巻(Book 3)が出る予定なので、まずはこの2冊を絶対に読まなければ。

Raven Pirate Princess: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew #TPB 1 (Princeless Raven Pirate Princess Tp)

Raven Pirate Princess: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew #TPB 1 (Princeless Raven Pirate Princess Tp)

ドラマ『スーパーガール』の余波、続報。この番組がきっかけで、8歳のレズビアンのために編まれたブックリストをどうぞ

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ドラマ『スーパーガール』のおかげで親にカムアウトできた13歳少女の話を先日紹介しました。実はこれ、前例があったんです。同番組を見て自分はレズビアンだと気づいた8歳児のために、Autostraddleがお薦め本リストを作ってあげてたんでした。

詳細は以下。

8 Middle Grade Books with LGBTQ Characters | Autostraddle

上記記事は、Autostraddleの「ご近所のフレンドリーなレズビアン司書に訊け!("Ask Your Friendly Neighbourhood Lesbrarian!")」というシリーズのひとつ。ケイシー(Casey)さんというレズビアンの司書が、読者からメールやTwitterで寄せられた要望に応じて、おすすめのLGBTQ2IA+関連書籍を教えてくれるというコーナーです。

今回このコーナーには、8歳女児のママからこんなメールが寄せられたとのこと。


こんにちはケイシー。

助けてください! わたしにはとても早熟な8歳の娘がいます。この子は生後9か月でしゃべり始め、2歳になる前には自分は将来女の人と結婚するのだと言っていました。娘はドラマ『スーパーガール』でレズビアンということばを知り、今では誰に対しても当然のように自分はレズビアンだと宣言しています。この青色の髪のおちびさんは、レズビアンの自認を持っているちっちゃな女の子に会いたがっているのですが、わたしはどこにいけばそういう子に会えるのか知りません。うちの近所では、たいていのグループやサービスはもっと大きな子を対象としているのです。娘は本を読むのが好きですから、自分がLGBTQだとわかっているもっと小さな子の話が読めたら、きっと喜ぶだろうと思います。娘が言うには、女の子ももちろんスーツを着ていいのだとか、毎日ボウタイをつけてもいいのだとか、将来の夢に女の人が含まれていてもいいのだとかいうことをいつも他の子やおとなたちに説明しなければならないのがとてもつらいのだそうです。うちのおちびさんがちっちゃなレズビアンに会える場所はどこでしょうかと他の人に尋ねると、たくさんの人が、その子は本当にそのような自己認識を持っているのかとか、あなたは娘さんがそうだと認識しているのかと聞いてきます。わたしは自分の子供たちの言うことに耳を傾けていて、だから、10歳の息子は異性愛者で、8歳の娘はレズビアンだとわかっています。子供たちがわたしに言い、わたしがそれを聞いたから、こうだとわかっているのです。もしこの子たちがいつか違うことを言ったら、わたしは今と同様彼らを信じることでしょう。

よろしくお願いします! マリー

Hello Casey,

Please help! I have a very precocious eight year old daughter who began speaking at nine months and decided that she would marry a woman before she turned two. She learned the term lesbian from the show Supergirl, and now matter of factly proclaims herself a lesbian to anyone. My little blue haired human would love to meet other self-identified tiny lesbians, but I don’t know where to find them. Most groups/services in my area are geared towards older children. She loves reading and would love to read about younger children who know that they are LGBTQ. She tells me that it is heartbreaking to have to continually explain to other children, and adults, that wearing a suit IS something girls can do, they can wear bow ties daily, and when they dream of their future it can include a woman.  When I ask people where I can meet other tiny lesbians for my little human many of them question if she is really so self-aware or if I am identifying her that way. I listen to my children and know that my 10 year old son is straight and my eight year old daughter is a lesbian. I know this because they told me and I listened, and if they tell me something different another time then I will believe them then as well.

Thank you!!! – Marie

ほら、こういうことがあるから、メディアにおけるマイノリティの表象ってものすごく大切なんですよ。主要メディアでの女性の描かれ方を問うドキュメンタリー映画『ミス・レプリゼンテーション』(日本のNetflixで、字幕付きで見ることができます)の中で、「人は、見えていないものにはなれない("You can't be what you can't see)」ということばが紹介されていますが、性的マイノリティの描かれ方についてもほぼ同じことが言えると思います。もっとも性的マイノリティの場合は、「なれない」というより、「自分が何者なのかわからなくて苦しむ」と言った方がより正確ですけど。

あたし自身が8歳だった頃には、TVでレズビアンということばすら聞いたことがなく、もっとずっと大きくなるまでレズビアンの概念すら知らないままでしたよ。女友達が「しょうらいのゆめは、(男性の)およめさん~」などと言いながら嬉しそうにウエディングドレスの絵を描いたり、男女の甘ったるいラブストーリーしか出てこない少女漫画誌を夢中で読んでいたりするのを「心底理解できん」と思っていたのに、それがなぜなのか、わからなかったんです。そこからもう少し経ってようやく目にしたレズビアン像にしても、AVの登場人物だの、サスペンスものの殺人犯だの、芸能人の「レズスキャンダル」の噂など、ネガティヴなものばかり。つまり、とてもじゃないけど自分と同一視したくないような表現ばかりで、そのためにものすごく人生の回り道をしたと思います。それを思うと、今、『スーパーガール』のおかげで少なくともふたりの女の子が無駄な回り道をせずに済んだことが、心の底からうれしいです。

余談ですが、『スーパーガール』がすごいのはレズビアン表象だけではありません。このドラマではヒーローのスーパーガール/カーラのみならず大統領も女性(しかもキャストはリンダ・カーター、つまり1975年のTVドラマのワンダーウーマンよ!)、カーラが働く巨大メディア企業のCEOも女性、大物のおそるべきヴィランも、(特に第2シーズンでは)大半が女性です。そしてDEO(エイリアン対策担当の政府機関)長官や、カーラが第1シーズンで片思いする相手や、強くていわくありげな「緑の火星人」は黒人。さらに、先日述べたように、超バッドアスな女性刑事マギー・ソウヤーはラティーナ。つまりこのドラマにおいては、大役はほぼマイノリティが担当し、白人男性はむしろサイドキックの役回りなんです。そこで「白人差別」「男性差別」と騒ぐのはまだ早い、詳しくは白人ギーク(またはナード)男性ウィンの描かれ方を見てください。つまるところこの作品は、「女と、非白人と、白人の中でも劣位に置かれた者たちが活躍する物語」なんです。これを見て励まされるのは、決しておちびさんのレズビアンだけではないはず。

さて、上記のママからのおたよりを受けてケイシーさんが作成した中学年(9~12歳)向けブックリストは計8冊。うち3冊だけ紹介しておくので、残りは元記事で読んでね。

George

George

  • George (by Alex Gino)
    • クロゼットのトランスジェンダー少女、ジョージ(本当の名前、つまり女性名はメリッサ)を主人公とする児童小説。クラスでやる劇『シャーロットのおくりもの』でどうしてもシャーロット役をやりたいと考えた彼女が、親友ケリーの理解と励ましのもと奮闘します。オーディオブックも出ていて、読んでいるのはNetflixドラマ『センス8』のジェイミー・クレイトンよ!

Raven Pirate Princess: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew #TPB 1 (Princeless Raven Pirate Princess Tp)

Raven Pirate Princess: Captain Raven and the All-Girl Pirate Crew #TPB 1 (Princeless Raven Pirate Princess Tp)

  • Princeless: Raven the Pirate Princess (by Jeremy Whitley)
    • 17歳の非白人クィア少女「レイヴン(別名ブラック・アロー)」が、乗組員が全員女性の海賊船を率いて冒険に乗り出すコミック。物語は、海賊王だった父の後を継ぐはずだったレイヴンが、悪辣な兄弟たちによってすべてを奪われ、「ここで王子様を待ってろ」と塔に閉じ込められ、そこから脱出して船を手に入れるところから始まります。女の子同士のキスシーンもありますが、ただの甘ったるいガール・ミーツ・ガールものではなく、常にスピード感ある展開とクールなアクションが楽しめるところがポイント。格闘シーンときたらまるでよくできた映画を観ているようだし、ミソジニストの男性キャラ連中を皮肉る部分も最高だしで、これを読める小学生はつくづく幸せだと思います。

Drama

Drama

  • Drama (by Raina Telgemeierdrama)
    • 学校の演劇で舞台装置を担当することになった12歳のミュージカルオタク、キャリーが、舞台の上でも下でもさまざまな騒動(ドラマ)を経験するという筋立てのコミック。序盤でゲイだとカミングアウトするキャラがいて、ほかにも両性愛またはクィアの要素が出てきます。まるで最高に脂がのっていた時期の『Glee』を12歳バージョンにしたかのような、大変よくできた思春期群像劇で、キャラたちの迷走する恋模様も、トラブルにぶつかりながら舞台を作り上げていくプロセスも、本番での"Show must go on"な緊迫感もすばらしいのひとこと。男の子同士のキスシーンもあり、超キュートですよ。

ドナルド・トランプの米大統領選勝利で「マイノリティへの差別と迫害にOKサインが出た」と勘違いする人が続出している今こそ、子供には積極的にこういうものを見せたいよね。この先どんな激しい憎悪の大津波が来ようと、あたしは『華氏451度』のラストシーンで川べりを歩く男たちのように、こうした物語のことを伝え続けるつもりです。あたしたちには、それが必要なんです。

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